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第3章 2
ある日のこと、幸村は昼食をとるため取引先近くの定食屋を訪れていた。店内はスーツ姿のサラリーマンや作業着を着た人で溢れていたが、運良く少しの待ち時間で席につくことができた。
「――暴行容疑等で逮捕されたのは、自称アルバイトの43歳の男――」
壁際に置かれたテレビは昼のニュースを映している。冷たい茶を運んできた店員に日替わり定食を注文すると、幸村はテレビの方に視線を向けた。
「被害者の男性は病院に搬送され――」
「なぁ、こういうのってDom活のトラブルらしいな」
キャスターの声に紛れて聞こえてくる会話に幸村の体がピクリと反応する。
「Dom活?何それ。DomとSubのDom?」
「そう。パートナーいないDomがSubを金で買うのをDom活っていうらしい。ネットで読んだけどDynamicsのPlayって相当やばいことやるらしいから、たぶんやり過ぎとか金の支払いで揉めたんだろうな」
「へぇー。要はただの売春だろ。Domにもいるんだな、そういう底辺。バイトした金でDom活とか惨めすぎ」
「芸能人とか以外でDynamics公言する奴ほとんどいないけど、案外この辺にも紛れてたりして」
「それ怖すぎんだろ。こんな何考えてんのかわかんない奴ら――」
――怖いのはお前らの方だ。Neutral以外は全員犯罪者扱いかよ。
差別的で下品な会話に耐えられず、幸村は静かに立ち上がりトイレへ向かった。気持ちを落ち着けるために手を洗いながら鏡を覗き込み、かつて自分も同じようなことを夏野に言ってしまったことを思い出す。
影響力の強い人間がDynamicsを持っていると明らかにすることで、表面上差別は存在しなくなったかのように見える。しかし、自分とは違うという認識が人々の心から消えない限りは、根拠のない偏見が彼らを苦しめるのだ。
――夏野はこういう奴らに……いや、俺みたいな奴に、今までどれだけ傷つけられてきたんだろう。もう1回ちゃんと謝ろう。男とかDomとか関係ない。俺は夏野という1人の人間ときちんと向き合いたい。
Neutralの人間が1人1人違うように、Domも1人1人違うのだということに改めて気付かされた幸村は、今日こそ夏野と和解しようと決意を固めた。
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