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第3章 10

「本当は……無理なんだよ。いくら働いても、いくらあんなことをしても、到底手の届く金額じゃない。それに、いくら金があっても、伝手のない俺なんかには……」 「じゃあ、何で夏野は……」 「縋るしかなかったから。いつか、技術の発展した未来が来て、誰もが手術を受けられるようになるかも知れない。その時のために金を貯めておきたかった。俺みたいな奴にも救いの手が差し伸べられる日が来ると信じて……それだけが、落ちこぼれで死に損ないの、俺の生きる希望だから」  幸村はもどかしさを感じていた。抗いようのない現実と、そのことに苦しめられる夏野をただ見ていることしかできない自分に。 「夏野……それなら、やっぱり2人で金を稼ごう。俺にとってはDynamicsがどうであれ夏野は夏野だけど、でも、それが夏野の希望なら……俺にも手伝わせてほしい」  夏野は真剣な顔をして幸村のことをじっと見つめたまま押し黙る。幸村はそんな夏野が何かを言う前に、自分の気持ちを全て話してしまおうと言葉を続けた。 「だけど、夏野が苦しんでる姿はもう見たくない。やりたくないなら、もう体を売るようなことはやめてほしい。俺は夏野のことが好きだから……大切だから、夏野にも自分を大切にしてほしい」  幸村は夏野の手をとり、その気持ちが少しでも伝わるようにと祈りながら話した。分かり合うことが難しい2人でも、その苦痛を分かち合うことができると信じて。 「幸村さん……」  ぎゅっとその手を握り返して、クシャッと顔を綻ばせ懐かしい笑顔を浮かべる。 「ありがとう、幸村さん。俺……」  きっと、再び飼い主の温もりに触れた迷い猫もこんな目をするんだろう。そんな愛しさと情熱が見せた幻覚に、幸村は心が満たされるのを感じていた。

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