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第4章 1
「ただいまー!ナツ、今日もここで待っててくれたのか!」
幸村は勢いよく部屋に飛び込むと、靴も脱がずに廊下に座る夏野の頭をワシャワシャと撫で回した。
「おかえり、幸村さん。腹減ったから早く飯にしよ」
夏野は嫌そうに目を伏せながらも、抵抗することなく幸村が満足するのを待っている。
「あー、ほんとナツは可愛いな。今日もいい匂い」
「……変態かよ」
「どっちが。そんな俺が大好きなくせに」
甘いキスを交わしつつも、深入りしすぎる前にどちらからともなく体を離す。幸村が手を洗っている間に、夏野は作っておいた夕食をテーブルに並べ始めた。
――あの日から、俺たちの生活は一変した。
夏野はDom性を売るための会員制サイトを退会し、一切のPlayを行わなくなった。代わりに抑制剤を使ってDomとしての衝動を抑え、アルバイトを掛け持ちして収入を得るようになった。
そして、幸村は資格取得のための勉強を始めた。収入を増やすためには、副業するよりも資格を強みに昇格や転職を目指す方がいいという夏野のアドバイスに従ったのだ。
平日、2人が一緒に過ごすことができるのは、幸村が帰宅してから夏野が夜勤に出掛けるまでの数時間だけとなった。
元々、夏野がペットになりたがったのは、「誰かに飼われればDom性を打ち消すことができる」という眉唾物の論説によるものだった。夏野自身もそれを信じていたわけではなかったが、住む家を失ったことをきっかけに試してみようと思ったのだという。
結果として夏野の中に変化が起きることはなかったが、それでも2人はあの日の幸村の思い付きを気に入っており、こうして今でも料理をするペットと飼い主という役割を演じて遊んでいる。
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