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第4章 3

 土曜日の早朝、幸村は顔を洗い、着替えを済ませてから、朝食もとらずにソワソワと落ち着きなく部屋を歩き回っていた。毎週訪れるこの時間ほど、時が過ぎるのが待ち遠しいと思うことはない。もう1杯コーヒーを淹れよう、そう思い立ち上がったその時、開け放たれた扉の向こう、廊下の先にある玄関の開く音が聞こえた。 「ただいま、幸村さ――」 「おかえり!」  短い廊下を駆けて、幸村は子どものように夏野に飛びついた。 「会いたかった」 「何だよ。毎日一緒にいるのに。幸村さんは寂しがり屋だな」  幸村に抱きつかれたまま、夏野は靴を脱ぐと洗面所に向かって歩き始める。 「ナツ、お腹空いてるよな?パン焼いてあげる。ナツもコーヒー飲む?」 「うん、お願い」 「わかった。でも、もうちょっとこうさせて」  手を洗い終え、疲れた様子でバシャバシャと顔を洗う夏野の腰に纏わりついたまま、幸村はすぐそばに掛かっているタオルを手に取った。 「俺が拭いてあげる」  濡れた顔にタオルを優しく押し当て、前髪から滴る水滴を拭っているうちに、幸村は堪え切れずに唇を重ねる。夜勤明けで帰ってきたはずなのに、どうしてこんなにいい香りがするのだろう。腰を引き寄せられ、お互いの心臓の鼓動がはっきりと分かるほど体を密着させる。何度も角度を変えながら舌を絡めているうちに、幸村は高まる気持ちが押さえきれなくなり顔を背けた。 「ナツ、俺、コーヒー淹れようと……」 「なによ、幸村さん。自分からキスしてきたくせに俺のせいにすんの?」 「だ、だって……」 「悪い飼い主様だな。俺もう我慢できないんだけど」  夏野は幸村の首筋を甘噛みし始めた。硬い歯の当たる感触は獰猛な欲望を感じさせる。 「待てって……せめて、ベッドに」 「2回目はな」 「2回目?そこまで、俺はっ……」  壁際に追い込まれた幸村は、夏野からの愛撫を受けたことで腰が砕け、すっかり抵抗をやめてしまった。 「……朝陽、いいよな?答えて」  下の名前を呼ばれたら、幸村は飼い主から恋人に変わる。 「そんな……いいよ、夏野。お願い……」  恋人の前では、本音を隠すことなんてできない――

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