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第4章 5

 射精後も興奮が収まらず、体が疼くような感覚に包まれるのは夏野との行為の時だけだった。幸村は呼吸を落ち着けようと深く息を吸い込みながら、柔らかな髪を撫で続けていた。それでもその思いが抑えきれずに、本当に欲しいものを求めようとする。 「夏野、俺にも……」 「幸村さん」  その呼び方は、身も心も溶かされるような行為の終わりを意味する。 「コーヒーは俺が淹れよっか」 「……や、待って、せめてそれくらいは……俺が」 「ほんと?ありがと」  幸村は洗面台で体を支えるようにしながら立ち上がると、乱れた服を戻しながらキッチンへと向かった。  ――俺が満たされないのは、されるばかりだからだ。俺だって夏野に触れたい。……それなのに。  夏野との行為はいつもここまでだった。夏野がこれ以上幸村に触れることも、幸村が夏野に触れることもない。夏野はいつも「疲れている」「これだけで十分」と言っていたが、幸村はその本当の理由を理解していた。  ――俺には夏野を満足させることができないから。Neutralの俺には……。  背中を丸めてぼんやりとテレビを見る後ろ姿をしばし見つめた後、幸村はもどかしさを押し殺して明るい笑顔を作った。 「お待たせ!朝ごはんの時間だよー、ナツ」

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