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第4章 6

 隣で丸くなって眠る夏野を起こさないようにそっとベッドを降りた幸村は、持ち帰ってきた仕事を片付けるためにパソコンを開いた。作りかけの資料を見返してみたものの、意識は安らかな寝息を立てている夏野の方に向いてしまう。  少しでも夏野のことを理解したいと思い、気が付けばスマホでDynamicsに関することを検索していた。夏野は幸村とDynamicsの話をするのを嫌い、通院に付き添うことも許可しなかった。そのため、幸村はこうして自分で調べる以外にそのことを知る術を持っていないのだ。  DomとSubの違い、彼らの持つ性的欲求、その欲求が満たされないと起きる身体的不調、それから、彼らを守るために作られた法律……得られる情報は教科書通りの一般的なものばかりだった。  Dynamicsが認知される前に婚姻関係を結んだ場合など、この世にはDynamicsにはよらないカップルも存在し、配偶者とは別にPlayのためのパートナーを持つことも法的に認められている。しかし、夏野はPlayやDom性そのものに対する嫌悪感が強いようで、特定のパートナーを持とうとはしなかった。  DomやSubにとって自慰に該当する行為は存在しない上に、抑制剤を使っても根本的な解決にはならず、定期的にPlayで欲求不満を解消するのが望ましいとされている。そのため、パートナーを持たない場合は、主治医を通し、治療の名目で相手を斡旋してもらうことができるらしい。  ――夏野はその「治療」を……受けてないんだろうな。正直言って、俺だって他人とPlay(あんなこと)なんてしてほしくない。でも他に解決策はないみたいだし、俺は……俺たちみたいな奴らは、どうするのが正しいんだろう……。  苛立ちながら顔を上げると、幸せそうな寝顔が目に入る。時々疲れたような顔を見せることもあるが、この家にいるときの夏野は気ままなペット生活をしていた頃とほとんど変わらないように見えた。  ゆっくりと近付き、起こさないようにそっと唇を重ねると、「朝陽がそばにいてくれればDomのことも忘れられる」と笑う夏野の声を思い出し、間違ったことはしていないと自分に言い聞かせた。

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