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第4章 9

「大丈夫。落ち着いて。何があったかなんて聞かないから、とにかくそれを外して……」 「あぁ?何?待って、朝陽?そこにいんの?でも、何で……」 「今帰って……ごめんな、遅くなっちゃって。あ、シュークリーム買ってきたよ。一緒に食べよう。な?」  幸村はスマホを握り締め、何かあればすぐに助けを呼べるようにと静かにそれを操作する。この家を知っている人間で一番信頼できるのは、同じ課の先輩、田代だ。メッセージアプリに部屋番号を打ち込み、いつでも送信できるよう準備をする。 「それ、鍵掛かってる?そのまま外せるのかな。夏野、血が出てるから、それは外さないと……」 「……頭痛い……おかしい。薬どこいった」  薬、その言葉を聞いて幸村は状況を察する。抑制剤の過剰摂取による症状か、それが効かなくなってしまったことによるDynamicsの影響だろう。 「あぁ、頭痛い!何でだよ?!何で……俺はこんなはずじゃない。俺は違うんだよ!」  夏野の叫ぶような声と金属音に怯えながら、幸村はベッドににじり寄る。過剰摂取やDynamicsが原因なのであれば田代だけでなく救急車も呼んだ方がいい、そう思いスマホに視線を落としながら、そっと夏野の体に触れた。  その瞬間、がくんと視界が揺れて、目の前に夏野の顔が現れる。 「……っ……」  いつの間にか胸倉を掴まれ、片腕とは思えないほど強い力で引き寄せられていた。虚ろだった瞳が幸村を捉えた途端、鈍く、伸し掛かるような光を放つ。 「あんた誰だよ」  ――え? 「何でSubがここにいんの?あぁ、朝陽が……あはは、そうか、あの人、俺のこと……俺にこんなSub当てがって……すごいな、あはは」  ――何言ってんだ、夏野。もう俺のこともわからないくらい意識が朦朧としてんのか……。 「いいよ。じゃあ、ヤろうよ。あんたもそのつもりで来たんだろ?Safe Wordは何?レッドでいい?」  早く助けを呼ばなければ、そう思っても先ほどの衝撃でスマホを落としてしまった上に、夏野の瞳から目を逸らすことができなかった。心臓を鷲掴みにされるような恐ろしさと、体を内側から撫でられるようなもどかしさが同時に込み上げてくる。 「いいよな?……Subならできんだろ。おすわり」  ――おすわり……?そうか、夏野は今俺のことをSubだと思い込んでるのか。それなら……夏野を助けてやることができるかも知れない。  幸村は見よう見まねで床にぺたんと尻をつくと、少し前屈みになり服従の姿勢を夏野に見せた。

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