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第4章 11
上体を床に伏せたまま、夏野に髪を掴まれて足で口を抉じ開けられる。
「こっち見ろよ」
その言葉に従い視線だけ上に向けると、夏野の嬉しそうな顔が目に入った。自分の行う乱暴な行為に喜んでいるのか、それとも言いなりとなる幸村の姿に喜んでいるのかわからなかったが、幸村にとっては夏野が満足できればそれでよかった。
「いい子だ。好きなんだな、こうされるの」
口腔内でウネウネと動く指に翻弄されるように、幸村は口の端から唾液が零れるのも気にせず夢中になってそれを舌で追い回した。しばらく続けた後、夏野はようやく満足したのか、引き抜いた足をシーツで拭い、ベッドをポンポンと叩いた。
「来いよ」
何をされるのかと怯えながらベッドに上がり、夏野と向き合うようにぺたんと座ると、幸村は項垂れるようにしながらおすわりの姿勢を取った。
「激しいのが好きなら、こういうのは嫌い?」
顎まで伝った唾液を拭き取るようにしながら、夏野の親指が口に入り込んでくる。真っすぐ幸村の目を覗き込んだ瞳は、再び重みのある光を放つ。
「キスしろ」
そのCommandは、幸村にとって他のどのCommandよりも辛いものだった。別人だと思われたまま、甘い思い出に溢れたその行為を行うのは耐え難いことのように感じられた。しかし、それでも、夏野の苦痛を取り除けるのなら従う以外の選択肢はない。
――夏野は俺のせいでこんなことに……。俺が無理させたから、俺が早く病院に連れて行かなかったから。だから……何としてでも俺がお前を助けてやる。
向かい合うように座り、瞼を閉じてキスを待つ夏野は、まるで普段の姿が戻ったようで、幸村は胸の高鳴りと息苦しさを同時に感じていた。
そっと唇が触れ合った瞬間、夏野は片手で幸村を抱き寄せるようにして舌を絡めた。幸村もそれに応え、夏野の頬に手を添えて覆いかぶさる。それは、今までしたことのないような、溺れるくらい激しいキスだった。
「……キスは上手いんだな」
一瞬だけ見えた夏野の瞳は、琥珀色に輝き、透き通るような美しさを取り戻しかけていた。
――こんな状況じゃなければ、どれほどよかったか。だって、このキスは……。
再び唇が重なり、ガチャガチャと手鎖の当たる音がする。早くそれだけでも外してやりたいと思っていたのに、幸村の意識はすっかりキスに奪われてしまっていた。
――気持ちいい。今までしたどんなキスよりも……。
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