46 / 99

第4章 14

 ガチャンと大きな音が聞こえて幸村は目を覚ました。暗闇の中、隣に夏野の気配を感じる。 「夏野……?夏野?!大丈夫?」 「……あ、朝陽……起こしちゃった?」  その声は震え、怯えているようだったが、幸村は自分の名前を呼ばれたことに安堵する。普段の夏野に戻ったようだ。 「朝陽、俺……その、俺……覚えてないんだよ。何をしたのか……でも、俺はきっと……」 「……夏野、いいから待ってて。電気つけてくるから」  幸村はベッドを降りると手探りで部屋の電気をつけた。眩しそうにぎゅっと目を閉じた夏野の手首には、やはり手錠が掛けられたままだった。 「夏野、それ外そう。自分でやったんだよな?鍵は?」 「投げ捨てちゃって……どっかにあると思うんだけど……」  そう言われ、幸村はベッドの周りを見回す。小さく光るものが絨毯の上に落ちているのを見つけて、ようやく夏野の手首は解放された。 「痛そうだな。うち消毒液とかないからコンビニで買ってくるよ」 「……痛くない。こんなのかすり傷だよ。……それよりも、俺は……俺はきっと、朝陽に酷いことを……」  夏野は傷付いた手首を反対の手で隠すようにぎゅっと握った。幸村はその手を優しく解き、震える体を抱き締める。 「大丈夫、夏野は何もしてないよ。暴れてたけど、俺はどこも怪我してないし、結局お前は疲れて寝ちゃったんだよ。ほんとにそれだけだから」  不自然な嘘にも思えたが、夏野に真実を話すつもりはなかった。 「もう落ち着いたみたいだけど、月曜は一緒に病院に行こう。今日のことも過剰摂取のこともちゃんと医者に相談しよう。俺も仕事休むから、お前も明日からバイト休め。な?」 「……でも、朝陽、仕事忙しいって……」  仕事を優先し、病院にも行かず夏野を1人にしてしまったことを悔やみながら、幸村は笑顔で首を振る。 「夏野の方が大事だから。大丈夫、何とかなるよ」 「……ありがと、朝陽」  柔らかい髪を撫でながら、幸村は今度こそ間違った行動を取らないようにと決意を固めた。

ともだちにシェアしよう!