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第4章 15
翌日の日曜日、夏野は朝から元気そうだった。ゆっくりしろという幸村の言葉も聞かず、張り切って朝食を作ると得意げな表情を見せる。
「幸村さん、俺のオムレツどう?」
「めちゃくちゃ旨い。いつもありがとな」
嬉しそうに頭を差し出す夏野の髪に触れる。
「自分から撫でてほしがるの珍しいな」
「幸村さんがそうしたいと思って」
「お、ナツは優しいな。じゃあ、遠慮なく」
力いっぱい頭を撫でてやると、夏野はくすぐったそうに身をよじり、大きな声で楽しそうに笑った。昨日までのやつれた姿はどこにもなく、すっかり体調が回復したようだった。その姿を見て、幸村は安心するとともに、新たな希望を見出していた。
――なんだ。Neutralの俺でもPlayできるんじゃん。何で今まで気付かなかったんだろう。昨日はびっくりしたけど、あの程度なら我慢できる。夏野は嫌がるだろうけど、他の人とするよりマシだし、薬で抑え込むよりよっぽど健全なはずだ。明日病院で事情を話して医者からも説得してもらおう。
朝食の後は、せっかくアルバイトを休んだのだからどこかに出掛けたいという夏野の要望を聞き入れ、2人で街に繰り出した。何をするでもなく、ウィンドウショッピングをしたり、カフェで甘いものを食べたり、ブラブラと歩いてくだらない話をした。夕方からは適当な居酒屋で酒を飲み、楽しい1日はあっという間に終わってしまった。
「なんか、初めてだな。こういうデートっぽいことしたの」
駅からの帰り道、幸村はしみじみとした気持ちで語りかける。
「あはは。確かに。お互い忙しくしすぎだな」
夏野の嬉しそうな横顔を見上げながら、幸村は幸せを噛み締めていた。自分とのPlayで夏野の欲求を満たすことができるのであれば、夏野がDomとしての本能に苦しめられることもなくなり、Dynamicsを消すことへの執着も捨てられるかも知れない。そうすれば無理にアルバイトを詰め込む必要もないし、以前ような穏やかな生活を取り戻せるだろう。幸村は自分との将来が夏野にとっての新しい希望になればいいという願いを込めて呟く。
「これからも……いっぱいデートしような」
その声はマンションの自動ドアが開く音に掻き消された。しかし、きっと夏野も同じ気持ちを抱いていると信じて、幸村はそれを繰り返すことなくそっとその体に寄り添った。
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