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第4章 16

「おはよう、幸村さん」  2日連続で一緒に迎える朝が、これほど愛おしいものだとは知らなかった。 「おはよ、ナツ。今日もいい子だな」  触れるだけのキスをして、身支度を始める。これから、こういう朝を何度も迎えることができるのだと思うと自然と顔が緩んでしまうが、今日は病院に行って真剣な話をするのだと気持ちを入れ直す。夏野の通院に付き添うのはこの日が初めてで、医者に聞いておきたいこともたくさんあった。 「……幸村さん、準備できた?病院、付いて来てくれてありがと。じゃ、行こっか」  クシャっと笑う夏野に手を引かれ、幸村は明るい気持ちで部屋を出た。  駅の改札をくぐり、ホームへと続く階段を降りていた時に、夏野が「あっ」と声を上げた。 「ごめん、朝陽。ちょっと腹痛いからトイレ行ってくる」 「……え?大丈夫?」 「うん、次の電車には間に合うと思うから先ホーム降りてて」  頭上の電光掲示板を見上げると、次の電車が来るまでは10分近く時間があるようだった。 「わかった、焦んなくていいよ」  幸村の返事を待たずに夏野はトイレへと駆けていった。そんなに切羽詰まっているのかと呆れながら、幸村は1人ホームへと向かう。  夏野に嘘をつかれたのだと気が付いたのは、30分以上経った後のことだった。いつまでも降りてこない夏野を心配してトイレを覗くと、そこには誰もいなかった。慌てて駅員に事情を話して改札を出ると、幸村は自宅へと走った。  まさか、こんなことになるとは思ってもみなかった。いつだって、夏野の抱える闇は幸村の想像より遥かに深い。 「夏野!」  玄関を開けた先にあったのは、静寂に包まれた自分の部屋だけだった。洋室にあったはずの夏野のボストンバッグはなく、代わりに机の上に手紙のような物が置かれている。 「そんな……何で……」  それを読まなくても、夏野が家を出て、もうここには帰って来ないつもりなのだとすぐに理解した。そして、幸村は手紙をその場に投げ捨てると、夏野を探すため家を飛び出した。

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