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第5章 3

 学内で知り合った裕福な友人に連れられて訪れたのは、DomやSubが集まると言われているクラブだった。V.I.P.ルームには高級官僚や芸能人、スポーツ選手などが訪れているらしい。  夏野がそのクラブで頂点に登り詰めるまでに、そう時間は掛からなかった。  若くて体力があり、人目を引く容姿を持つ夏野に好意を抱くSubは多く、求められるがまま、相手が男でも女でも、何歳上でも相手をしてきた。そうしている内にDomにも媚びを売られるようになり、いつしか夏野は王と呼ばれるようになっていた。  当然、V.I.P.ルームにいるような連中は、例えSubでも夏野に手を出すことはなく、ただその様子を面白がって見ているだけだった。しかし、夏野はそれに気が付かず、本当に自分が王になったような気でおり、大学にもほとんど行かずにクラブに入り浸るようになっていた。  そんな生活を数ヶ月続けていた4年生の秋頃、夏野はゼミの教授に呼び出しを受けて久しぶりに大学を訪れていた。就職先も決まっていない上に、このままでは留年すると説教を受けた夏野が苛立ちながら教授室を出ると、そこには1人の男子学生が立っていた。あどけなさを残す黒髪と、凛々しい顔で何かを待つ姿は、躾を覚えたばかりのドーベルマンの子どもみたいだと思った。 「……あんた、そこで何してんの?盗み聞き?」  Domとしては頂点に立ったつもりでも、大学生としては最底辺に堕ちていることを自覚していた夏野は、ストレスをぶつけるようにその学生に話し掛けた。 「いえ、あなたが去るのを待っていたんです」  相変わらず凛とした表情で、真っ黒な瞳が夏野を捉えた。その途端、夏野は彼がSubであることを認識した。 「何のために?」 「研究の相談に乗っていただく約束があるので」  怖いほど物怖じしないSubだな、夏野はそう思っていた。淡々と質問に答えるその様子は、決してお前のCommandには従わないという意志の現れのように思えた。 「それ、いつ終わんの?」 「2時間くらい後には」  それを聞いた夏野が目を逸らすと、学生は何も言わずに教授室の扉をノックし始めた。ここまではっきりと目を合わせても一切動じないSubを見たのは、この時が初めてだった。  そしてこれは、後に夏野の人生を大きく変える出会いとなった。

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