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第5章 10

「おすわり」  大人しく個室から出てきた萩原に対して、夏野は仁王立ちでCommandを下す。漆黒の瞳は潤み、反抗的な色を失っていたが、それでも尚その支配権を夏野に渡すつもりはなさそうだった。 「様子がおかしいと思ったら……こんなとこで何してた?言えよ」 「……自分を満たそうと」  トイレの床に膝をついて腰を落とした萩原は真っすぐ夏野のことを見上げながら、少しだけ口角を持ち上げる。荒い息遣いとその表情が相まって妖艶な雰囲気を醸し出していた。  夏野はその雰囲気に呑まれないよう、必死に冷静さを保って顔を顰める。 「自分でなんてできるはずないだろ?そう教わらなかった?俺達にはPlayが必要だって……」 「やりたくありません。だって、したことないんです。僕は……Playなんて、そんな汚らわしいこと。そんな風にDomに支配されるなんて耐えられない」  Playをしたことがない、そんなSubが本当にいるのだろうかと夏野は首を傾げる。Playをしなければ体調を崩して生活に支障が出る上に、こんな風に欲求不満をまき散らしていれば質の悪いDomに捕まって無理やり犯されてもおかしくない。 「そんなこと言ったって……大地、今自分がどんな状況かわかってる?危険すぎる。そんな姿、他のDomが見たら……」 「わかってますよ。夏野さん、今あなたがしてることの話でしょ?」  漆黒の瞳が光り、夏野は萩原が自分を求めているのだと悟った。負けず嫌いの萩原がSubの欲求を満たすにはこうする他なかったのかも知れない。夏野は驚きを感じつつも萩原を救えるのは自分しかいないと思い、彼を支配するために自分の中にあるDom性を煽り、ごくりと唾を飲み込んだ。 「……あぁ、そうだよ。俺がやってることだよ。わかってんだな?」  ――こんなに反抗的なSubを相手にするのは初めてだ。でも、俺に支配できないSubなんているわけない。安心しろ、大地。俺が何とかしてやるからな。

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