62 / 99

第5章 13

 心臓がバクバクと脈打ち、言いようのない居心地の悪さを感じていた夏野はその場をどう収めるべきか迷って立ち尽くしていた。その時、萩原が突然跳ねるように近付いてきた。 「夏野さんっ」  萩原は夏野の足元に跪き、汚れた手を取ると間髪を入れずに舌を這わせた。ゾクゾクとするようなくすぐったさに夏野は手を引こうとするが、萩原はそれを許さなかった。 「え……だ、大地?もう、やめろよ……」  萩原はその言葉には従わずに、まるで花の蜜でも舐めとるかのように丁寧に自身の精液を舌で掬い取っていた。挑発的な眼差しも、先ほど見せた抵抗も、今とっている行動も、全てが理解できず夏野はただ呆然とその様子を見つめていた。  ふいに漆黒の瞳が夏野の方に向けられる。紅潮した頬が僅かに盛り上がり、薄い唇が弧を描く。萩原は夏野の手の甲にキスを落とすと、興奮した様子で口を開いた。 「夏野さん……僕をあなたのSubにしてください」  ――え?何言ってんの?  萩原は夏野のパートナーにしてほしいと申し出てきたのだった。彼を満足させるPlayができなかったと考えていた夏野はその発言に益々困惑し、視線を泳がせる。 「何で……」 「あなたしかいないんです。僕はあなたに支配されたい。お願いします」  途切れ途切れに言葉を発する夏野とは対照的に、萩原は食らいつくように頼み込んでくる。 「でも……」 「僕は誰ともPlayできなかった。でも、夏野さんとなら……。お願い、僕を助けてください」  助けてください、その言葉に夏野の心が揺さぶられる。生意気で、反抗的で、優秀で、弟のように可愛い萩原のことを放っておくことなんてできなかった。それに、無理やり支配権を奪おうとした後ろめたさもあって、ようやく観念して覚悟を決める。  夏野はじっと萩原の瞳を見つめ返し、動揺を抑えてなるべく低い声で彼に答えた。 「わかったよ。……大地、俺のSubになれ」 「はい、ありがとうございます」  ぎゅっと握り締められた手に熱を感じながら、夏野は必ず萩原を幸せにしてやろうと心に決めた。こうしてSubに心を支配されたのは生まれて初めてのことだった。

ともだちにシェアしよう!