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第6章 3
夏休み明けのある日のこと、ゼミの教室でパソコンに向かっていた萩原が隣に座る夏野の肩を叩き、睨みつけるようにしながら冷たい声を発した。
「ちょっと晄、これ統計の取り方間違ってるんだけど。あと、本文のデータがグラフと合ってない。それから体裁もおかしくて――」
「待って、大地。それ最新じゃないから」
「最新以外ここに置かないでって言ったよね?僕の時間返してくれるかな」
「読む前に声掛けてって俺も言ったよな?皆の前で詰められて、俺のプライド返してくれる?」
喧嘩しているようで仲の良い2人のやり取りに教室が和やかな笑いに包まれる。2人が共同で研究するようになってから、萩原のことを悪く言う人間はいなくなり、教授も満足そうにしていた。
「それにしても大地はほんとよく見てるよな。うるさいけど助かるよ。いつもありがと」
「僕の成果にもなるんだから当然だろ。晄のためじゃない」
2人がパートナーとして付き合っているのは公然のこととなっていた。また、夏野は大手コンサルタント会社に、萩原は外資系の保険会社に就職することが決まっており、卒業論文の執筆も予定通り進んでいる。周りの人間にとって、夏野と萩原はとても順調な日々を送っているように見えた。
しかし、その実、彼らの関係は少し前から壊れかけていた。夏野はキーボードを操作する萩原の手元を見て、不安を押し殺すように一度だけ強く奥歯を噛み締めた。今日もその手首には不審な痕がついている。
大学の後、いつものように部屋へと付いてきた萩原に対して、夏野はその手首を掴んで壁へと押し当てる。
「大地。これ、何だよ」
電気をつけていない薄暗い部屋の中で、細い手首にくっきりとついた赤い縄の痕が浮かぶ。
「自分でやったんだ……。興味があって」
その不敵な笑みと興奮で震える声に、夏野はさらに強く力を込める。
「嘘つくんじゃねぇよ。どうやって自分で両手縛るんだよ」
「……ふふ、そうだね。でも、僕は何だってできるんだ。晄も知ってるだろ。僕は――」
「うるせぇな。だから言い訳すんじゃねぇよ」
壁際に追い詰めた萩原の脚の間に膝を差し込み、太ももで強く股間を押し上げた。中心部分が熱を持っていることに夏野はさらに苛立ちを募らせる。
「大地……大地は俺のSubだ。俺が支配してる。この体も心も全部、俺のもんだ。わかるか?」
「わっ、わかるよ。僕は晄のものだって、ちゃんとわかってる」
「じゃあ、何で」
夏野は萩原の手首に爪を立てると、加減もせずにそれを強く食い込ませた。
「いっ……痛い……」
「何で俺の言うことが聞けないんだよ。この体に傷をつけていいのは俺だけだ」
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