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第6章 5
ベッドの上で眠る萩原を抱き締めながら、夏野は自分の手が震えていることに気が付いた。離れている時はこの関係の危険性を理解できるのに、こうして触れているとこの細い体を滅茶苦茶に壊してしまいたいような衝動に駆られる。
――大地、俺はどうすればいい?どうすれば大地を傷付けずに幸せにできるんだろう。
萩原が不審な傷痕をつけてくるのは、この時が初めてのことではなかった。数週間前から、キスマークや爪痕、痣などをつけていることが度々あった。問い詰めると必ず「自分でやった」と答えるが、到底自分ではつけられないような場所に痕が残っているため、それは見え透いた嘘だった。いつどこで誰に、Commandを使えばそれを聞き出すのは容易いことだったが、夏野はそれができずにいた。萩原がわざとそうして夏野を嫉妬させ、怒らせていることを理解しているからだ。そうしたPlayを望む萩原に対して、期待に背くようなことをすれば彼を失ってしまいそうで怖かった。
萩原と出会うまで、夏野は自分のことを誰よりもPlayが上手いと思っていた。しかし、夏野のやってきたこと――相手の期待にただ応えるという行為は、一時的にSubを満足させることができたとしても、本当の意味で相手を支配できるものではなかった。現に、夏野は萩原を支配するどころか、逆に完全に振り回されている。
Dynamicsによる繋がりは一方的なものではない。双方の欲求とそれが満たされることによって保たれる関係性だ。萩原を失いたくなかった夏野は必死に彼の要求に応えてきたが、そうすることで夏野のDynamicsは満たされても、心がそれを拒絶する。夏野が得る歪な満足感は、萩原の心を満たせず彼の要求をさらに過激なものにする。夏野にとってはこれ以上ないほど不幸な悪循環だった。
――DomとSubって何だよ。俺は大地のことが好きなのに、どうして傷付けることでしかそれを示せないんだろう。どうしてそうしなければ満たされないんだろう。
夏野は萩原の顔を自分の方へと向けると、起こさないようにそっと唇を重ねる。キスをしろなどという甘いCommandは萩原が嫌うため、こうすることができるのは眠っているときだけだった。
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