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第6章 6
萩原の体に自分の体を重ねるようにして覆い被さり、啄むようにキスを繰り返した。食欲旺盛な萩原のことだから食事の夢でも見ているのだろうか、薄く開いた口に舌を挿し入れると、ちゅっとそれに吸いついてきた。今まで一度も交わしたことのない甘い甘いキスに酔いしれて、夏野は午後の木漏れ日の下で見る夢のような心地よさを感じていた。
――俺が本当に求めているものは、大地のとのこんな……。
しかし、夢のような時間は長くは続かなかった。小さな呻き声とともに、萩原の眉が不快そうに中央に寄り、長いまつ毛がゆっくりと持ち上げられた。
「……何?晄、起きてたの?」
お互いの息が掛かるほど近くにいることを不審に思ったのか、萩原は怪訝そうな表情で夏野を見つめる。
「うん、ちょっと目覚めて……」
「ねぇ、晄。……ここ、濡れてる」
細い指が夏野の頬を撫でる。
「泣いてたの?」
ハッとして萩原の瞳を見ると、そこには優しい光が宿っているように思えた。
「大地、俺はっ……」
言うならば今しかない。この歪な関係を正して、もっとお互いを大切にできるような、愛を感じられるような繋がりを持つためには、今この場で正直に話すべきだ。しかし、その言葉を聞く前に、萩原は縋るように夏野の胸に顔を寄せ、赤ん坊のようにぎゅっとTシャツを握り締めた。
「ふふ、好きだよ。優しい晄が、大好きだよ」
夏野が目線を下ろすと、漆黒の瞳が妖艶な光りを放つ。萩原の言う「優しい」の意味は、きっと夏野の知っているものとは異なるのだろう。夏野は言葉を失い、ゆっくりと動く口元を眺めていた。
「僕は、これからもずっと、晄のものだよ。ねぇ……そうだよね?」
そう囁かれた瞬間に、夏野の心は真っ暗な雲に覆われてしまったかのように希望を失う。萩原が求めているものは、夏野が夢見る世界とは全く異なるものだった。
「あぁ、そうだよ。……俺も大好きだよ、大地」
求められた優しさを見せつけるように、夏野は白い首筋に手を掛けた。
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