71 / 99

第6章 9

 夜中になっても萩原と連絡がつかず、夏野はその日3度目の通話の発信をする。しかし、無機質な電子音がひたすら鳴り続けるだけで、いつまでも萩原の声を聞くことはできなかった。 「どこで何してんだよ。次会ったらキツイお仕置き……だな」  そんなことを呟く自分を嘲笑いながら、引き出しを開けて今までのPlayのために用意した道具を眺める。萩原との思い出がそこに詰まっているような気がして、夏野は虚しさを感じていた。 「手錠とか鞭とか……こんなものでしか繋がれない関係なんて、やっぱおかしいだろ。まぁ、全部俺が用意したんだけど」  その時、スマホの振動音が部屋に響いて夏野は反射的にそれに飛びついた。発信元は萩原だった。 「もしもしっ?!大地、今何して――」 『おい、繋がったよ』『ほんとに晄クンのSubなんだぁ』『なぁっ……やめっいやっ』『うわ、マジで夏野が……おい、ちょっ――』  ブツッと音がして通話はすぐに途切れた。  ドクンドクンと、心臓があり得ないほど速く、強く鼓動するのを感じる。電話口から聞こえてきたのは、割れるようなBGM、何人かの男女の声、それから、萩原の苦しそうな声。  ――何だよ、今の。  萩原が他のDomと一緒にいるであろうことは察していた。しかし、まさかその相手が大勢いるとは夢にも思わなかった。過激さを増長させる複数人でのPlayは大変危険なものであり、法律でも禁止されている。 「クソッ、あり得ねぇ。何だよ、今の。何だよ、どこにいんだよ」  混乱した夏野が再び通話を発信しようとしたその時、動画が届いたことを知らせる通知が表示された。何が送られてきたのか、それを考えると吐き気が込み上げたが、夏野は震える指でその動画を開く。  見覚えのある壁紙に、ギラギラと輝く照明。何人もの人間がそこにいて、酒を飲みながら大騒ぎしている。その足元で、白い肌に黒いレースの下着のようなものを纏い、床に這いつくばっているのは、短い黒髪に大きな黒い瞳を持つ、あどけなさの残る青年で――

ともだちにシェアしよう!