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第6章 11

 気が付けばその部屋の中には数人しかおらず、夏野は彼らとともに警察に取り押さえられていた。連行されるその時まで萩原のことを必死に探していたが、その姿はどこにも見当たらなかった。  夏野は酒を飲んでいなかったが、場所が場所だけに警察には酔っ払い同士の喧嘩として処理された。さらに夏野は送り付けられた例の動画を持っていたことから、DomがSubを守ろうとする時に過剰に暴力的になってしまうDefenseという状態であったことが認められ、すぐに解放された。  警察に動画を見せる時に気が付いたのだが、あの場にいたのはかつてパートナーにしてくれとしつこく迫ってきたSubや、自分のSubを夏野に取られたと難癖をつけてきたDomだった。他にも覚えていない人物が大勢いたが、きっと知らない場所で夏野は相当恨まれていたのだろう。  身柄を引き取りに来た両親の顔は、恐らく一生忘れることができない。母親は泣き崩れ、父親には殴られたが、そこにあるのは悲しみでも怒りでもなかったように思う。いつしか自慢の我が子ではなくなっていたが、それでも彼らは夏野を愛していた。その愛情すら失い、夏野は何よりも恐れていた両親からの失望を、一番悪い形で受け取ったことを自覚していた。  当然、大学にも連絡がいき、夏野は停学処分となった。退学処分とならなかったのは竹中教授のお陰だったが、これ以上留年することもできず、また、針の筵のような状態で学生生活を続ける勇気もなく、夏野は自ら退学することを選択した。  両親には何度も頭を下げ、必ず今までの学費を返すと申し出た上で家を出た。母親は夏野の顔を見ることもせず黙っていて、父親は「好きにしろ」とだけ言い放った。  両親が賃料を払ってくれていた大学近くのアパートは解約までに2週間ほど期間が残っていたため、夏野は再びそこに帰った。一気に崩れ落ちてしまった自分の人生に深い絶望を感じて呆然と部屋の中を眺めながら、夏野は萩原のことを思い出していた。その時まで萩原からは一切の連絡もなかったが、夏野はどうしても彼に会って謝りたかった。

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