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第6章 13
薄暗い玄関に立つ萩原の瞳は、夏野に対する敵意で溢れているように見えた。初めて会った時と同じ、決してお前のCommandには従わないという強い意思を宿しているようだった。
「大地……ごめん。本当にごめん。俺のせいで、大地は……」
萩原の目を見れずに、夏野はそう言いながら床に膝をついて頭を下げた。
「何が俺のせいなんですか?本当に、いつも傲慢で、図々しくて、世界が自分を中心に回っているみたいに……僕はあなたのそういうところが、ずっと前から大嫌いだった」
許されると思っていたわけではない。ただ話をしてもらえるだけでも、こうして謝罪に耳を傾けてもらえるだけでも十分だと考えていた。しかし、萩原の言葉は夏野の想像以上に辛いものだった。
「僕は一度だってあなたを想ったことなんてない。ただ、興味があったんだ。Subを支配することもできない、落ちこぼれのDomに。そんなDomがSubに溺れる姿を観察したかった。……あの時、あの人たちを呼んで、動画を撮らせたのは僕です。あなたがあのクラブで有名人だって知って、壊れるあなたを見てみようと思った」
夏野の脳裏には「好きだよ」と囁く萩原の熱っぽい声と、妖艶な漆黒の瞳が浮かぶ。夏野はこの瞬間まで、萩原が自分を嫉妬させたいからああいう行動を取っているのだと信じて疑っていなかった。しかし、それすらも独り善がりな勘違いだったと思い知らされる。
「だけど……こんなに面倒なことになるとは思わなかった。あなたがここまで愚かだったとは」
萩原の声は震え、夏野の目の端には小さな握りこぶしが映る。
「やっぱり、あなたになんて関わらなければよかった」
吐き捨てるようにそう言うと、萩原は夏野に背を向けて扉に手を掛ける。
「大地、それでも俺は――」
「あなたみたいなDomとなんて、出会わなければよかった」
俺は大地が好きだった、そう言おうとする夏野を遮り、萩原は一際大きな声を出した。
「情けない、見せかけだけの、落ちこぼれのDomなんて……物珍しい以外に何の価値もない。二度と顔を見せないでください。僕の前から……永遠に、消えてくれませんか」
振り返った萩原の顔を見て、夏野は言葉を呑み込んだ。その瞳に浮かんでいたのは、軽蔑と憎悪の感情だった。萩原はそのまま再び扉の方に向き直り、勢いよくそれを開くといつものようにピンと背筋を伸ばして歩き去った。
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