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第7章 2
それから何度か死のうと思った。自殺の名所と呼ばれる吊り橋に行ったり、事故が多発する峠でスピードを出してみたり、踏切の警報を聞きながら立ち尽くしたり……しかし、どんな状況であっても夏野は最後の一歩を踏み出せなかった。死のうとするたびに、死にたくないと思ってしまう。それはとても惨めなことだった。
――結局俺は何一つ本能に逆らえないのか。Domであることに自惚れ、挫折を受け入れられず、挙句の果てに大切な人を傷つけ、自ら死を選ぶこともできない。落ちこぼれの俺に、もう生きる意味なんてないのに。
酒の力を借りれば死ねるかも知れない。投げやりにもそう思った夏野は都心へと戻り、車を廃車処理してから、それまであまり訪れることのなかった街へと向かった。しかし、Dynamicsを持つ人間は酒に強いため、何軒かの居酒屋やバーを回っても酩酊には至れず、その前に手持ちの金が尽きそうだった。最終的にはコンビニで安物のウイスキーを買い、ゴミ捨て場に腰を下ろして、薄っすらと白む空を見ながら睡眠薬を流し込んだ。
薄汚い都会の中心にあっても、昇る朝日は美しかった。
次に目を覚ました時に目に入ってきたのは、滑らかな木製のテーブルに、しな垂れるドラセナの葉、そしてレンガ調の壁。死後の世界というにはあまりにも人間味のある趣味の空間だった。
「……え?」
体を起こそうとすると腕が沈み、激しい頭痛と吐き気の中、自分が革張りのソファに寝ていたことに気が付く。ここはどこかと考えるよりも前に胃から込み上げるものを感じて、咄嗟に目に入ったポリバケツを掴んでその中に吐き出した。
「大丈夫か?」
隣に腰掛けた人に背中を摩られ、その手の温もりを感じ、またしても死にきれなかったのだと悟った。
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