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第7章 5

 そんな生活も板についた初夏のある日、彼のことをDomだと知らないアルバイト先の同僚に紹介され、夏野は街コンのサクラをやっていた。Neutralの男女が見せるもどかしい恋愛模様を眺めるのは興味深くて、夏野はサクラの仕事もそっちのけで他の参加者のことを観察していた。  その中で目に止まったのが幸村だった。白い肌に短い黒髪、小柄で華奢な体、それから、身なりの割りに幼い顔つき。萩原に似たその容姿は最後に見た軽蔑と憎悪の籠った眼差しを蘇らせ、冷汗が背中を伝ったが、そんな記憶も幸村の瞳を見ればすぐに打ち消された。その瞳は萩原と同じ黒色だったが、深い漆黒ではなく、まるで透き通るような輝きを持つ黒だった。  性格も萩原とは対照的で、終始キョロキョロと周りに気を配り、くたびれた笑顔を絶やさず、同行者の男性の顔色をずっと窺っていた。その様子を見て、夏野は幸村がその同行者を好きなんだと思ったほどだった。  同行者がマッチングした女性と去っていくのを見つめる幸村に同情した夏野は、強引ではあったが彼を元気づけようと飲みに誘ったのだった。その口から出てくるのが恋愛の悩みではなく仕事の愚痴ばかりで面食らったが、愚痴を吐いているとは思えないほど明るい表情で話をする幸村と過ごした時間は楽しいものだった。  思い返してみればあの日から、夏野はずっと幸村に好意を抱いていた。真面目で優しくて不器用で、他人に振り回されているのに活き活きと笑う幸村が羨ましかった。自分がもしNeutralとして生きられるのであれば、この人のようになりたい。そう思わせるような、キラキラと輝く瞳が忘れられなかった。  そのため、静井が話したおとぎ話と、猫を飼いたいけど飼えないという幸村の発言を結びつけたのは、Dynamicsを消すためではなく、ただ幸村のそばにいるための口実に過ぎなかった。

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