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第7章 6
夏野は昔から、誰かの期待に応えるのが何よりも好きで、得意だった。幸村が自分に何を求めているのか手に取るようにわかったし、それを叶えることで自分自身も満たされるのを感じていた。
Subのパートナーを持てない夏野にとって、それは新しい希望だった。
特に幸村と初めてキスをした時には、SubとのPlayと同じくらいか、それ以上の充足感を覚えていた。ペットの振りをしたことで本当にDynamicsが消えたんじゃないかとすら思ったほどだ。それ故に、幸村が男を恋愛対象としていないと知った時には強いショックを受けた。Dynamicsを持つ者の多くは一次性にこだわっていなかったこともあり、幸村がそのことを気にするとは思っていなかったのだ。
男であることを受け入れられないのであれば、Domであることなど到底受け入れられないだろう。そう思った夏野は再びPlayに逃げた。自分の醜態を見せつけて嫌われればいい、そう考えて近所でPlayできる相手を探したが、実際にその姿を見た幸村の表情を目にすると苦しかった。
しかし、それでも、幸村は夏野のことを受け入れ、あまつさえ一緒にDynamicsを消すという夢を叶えようと申し出てくれたのだった。この世にそこまで優しい人間がいるのかということに驚くとともに、夏野は今度こそ大切な人を幸せにしようと決意したのだった。
――なのに、俺は……朝陽にあんなことを。
幸村の家を出てから信号以外で足を止めることのなかった夏野は、ふと立ち止まり高く昇った太陽を見上げた。赤く燃える太陽は、触れるもの全てを焼き尽くす。
幸村からSubのような気配を感じたのは、2人が恋人同士となってからすぐのことだった。そんなはずはない、何度そう思おうとしても、日に日に幸村を支配したいという気持ちが抑えきれなくなりそうだった。
それは萩原の時と同じだった。離れていれば何も感じないのに、触れ合っていると幸村を組み敷き傷つけてしまいそうで怖かった。「朝陽がそばにいてくれればDomのことも忘れられる」夏野の体調を心配した幸村にそう伝えたこともあったが、真実はその反対だ。
叶わない夢のことなど、ずっと前から諦めていた。アルバイトを詰め込んだのは、ただ幸村と一緒にいる時間を減らすための言い訳でしかなかった。
――Neutralの朝陽に対してそんなことを思うなんて……大切な人を傷つけたいと思うのは、きっとDynamicsのせいじゃない。俺という人間がそうなんだ。
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