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第7章 8

「違う。俺の暴力だよ」  夏野は手元のグラスを見つめながら吐き捨てるようにそう言った。無垢で美しい透明な物が薄茶色の液体によって抵抗もできずに溶かされていく様は、まるで幸村と自分の関係を表しているように見えた。 「俺は覚えてないんだ……。でも、他に考えられない。俺は暴力で幸村さんを支配した。そして、それが俺を満足させた。あり得ないだろ。俺はDomですらない。もっと、もっと非道で、凶悪な……」  顔を上げた夏野の瞳には自分自身に対する怒りが滾っていたが、静井はそれを穏やかな表情で見つめていた。 「晄君。君が何をしてしまったのかは僕にもわからないけど……君が彼に暴力を振るうとは思えない。それに、かつて僕に教えてくれただろう。Dynamicsと、それを持つ人の心は別のところにあるんだって」 「――だからそれが!」  夏野は大声でそう言うと、カウンターを叩こうとして振り上げた手をぎゅっと握り締めて静かに下に落とす。 「だから、俺自身の人間性が、それが朝陽を……」  その声は震え、小さくなって消えていく。夏野はグラスを手に取り中身をぐっと飲み干すと、俯いたまま立ち上がった。 「ごちそうさま。……もしも幸村さんか警察が来たらここに連絡してほしい」  夏野はテーブルの上に数枚の紙幣と連絡先を書いたメモ用紙を置き、くるりと向きを変えると出口に向かって歩き始めた。 「……ごめんなさい、変われなくて。俺のこと信じてくれたのに」  扉に手を触れ、振り返ることなくそう言った。 「変わる必要なんて元からなかっただろう。またいつでもここに帰っておいで」  重い扉が軋む音に紛れて聞こえてきた優しい言葉は、今の夏野には届かなかった。

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