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第7章 9

 バーを出た後、夏野は再び歩き始めて別の街へと向かった。数年前、まだ大学生だった頃に頻繁に訪れていた場所で、恐らくこの国で夜中に最も人の集まる場所だろう。駅前のコインロッカーにボストンバッグを投げ入れると、夏野は少しずつ人の集まり始めた街を練り歩き始めた。  すれ違う人たちは品定めをするかのように夏野のことを頭からつま先までジロジロと眺める。ここはそういう場所だった。  夏野はふと足を止めてある建物を眺めていた。それはかつて夏野が王と呼ばれていたクラブ――今でも容易に思い出すことのできる、忌まわしい事件の現場だった。入り口のセキュリティは自分の顔を知っているだろうか。彼らが知らなくても、きっとすぐに見つかって摘まみだされてしまうだろう。夏野はこのクラブに出入り禁止となっている。  ――大地は、今どうしてるのかな……。今でもあんな危険なPlayを求めてるのかな。  萩原が最後に話した言葉の全てが真実なのかどうか今でも知る由はないが、漆黒の瞳は確かに軽蔑と憎悪の色を纏っていた。好きだった人に蔑まれ、憎まれるようなことをしてしまったという事実は今でも深い傷となって残っている。しかし、それよりも夏野は萩原を変えてしまったことを悔やんでいた。  ――大地が俺のことをどう思っていたかは関係ない。大地があんな風になってしまったのは俺のせいだ。俺が助けてやるだなんて、幸せにしてやるだなんて、そんなこと考えたせいで大地は……。  その時、誰かに肩を叩かれて振り返った。 「……ねぇ、中入んないの?」  そこには大学生くらいの若い女性が2人立っていた。目を見れば、片方がSubでもう片方がNeutralだとわかる。 「入れないんだよ、俺は」  そう言うと夏野は踵を返して歩き始めた。後ろからは「何、今の?」とクスクス笑う声が聞こえてくる。  ――こんな風に生きるくらいなら、いっそ死んだ方がマシなのに。  何度死のうとしても最後の最後で生き延びてしまう。きっとそれもDomの本能なのだろう。

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