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第7章 10

 先ほど出会ったばかりの男の部屋で、夏野は海外製の瓶ビールを片手に窓から見える月をぼんやりと眺めていた。とても静かな美しい夜だった。  ――朝陽の部屋からは……月、見えなかったよな。俺たちは同じ月を見ることも許されないのかな。 「……あっ……あぁ……」  静寂の中、1人で艶めかしい声を上げる男に視線を向ける。夏野は椅子に座ったまま脚を伸ばして、男の体の中から顔を覗かせる異物を軽く蹴った。 「うああぁっ……」 「情けねぇ声……あと3分。きっちりやれよ」  手元のキッチンタイマーを見てそう呟く。  ――10分間、お気に入りの玩具を咥えこむこと。……これのどこがお仕置きなんだか。  男はSubだった。泊めてくれるというので付いてきたら、当然のようにPlayを求められたのだ。よほど欲求が溜まっていたのか、男は夏野のCommandをいくつかこなすだけですぐに達してしまい、自らお仕置きされることを望んできた。  ピピピという音に合わせて、夏野はもう一度その異物を蹴り上げる。 「ぁああぁんっ……」 「何1人でヨガってんだよ。終わりだ。ほら、こっち向け」  この目に、自分はどんな風に映っているんだろう。男の顎に手を添えて、夏野は自分の醜さを自覚しながらも、満たされるものを感じていた。 「今度こそ俺を満足させろよ?わかるだろ?俺を誘ってみろよ」  この男が何を求めているのか、夏野は言われなくても理解していた。  ――どうせ俺の顔が好きなんだろ。羞恥を煽られながら、俺の顔見てイキたいんだろ。 「やれよ。それとももう1回お仕置きするか?今度は何分にする?何挿れる?この瓶くらいなら――」 「ごっ……ごめんなさい、やめてください……僕は、晄さんの……」  男は自ら仰向けになり、全てを曝け出しながら、ズブズブと玩具を抜き差しして卑猥な言葉で夏野を誘惑した。夏野はそこに覆いかぶさり、さらに直接的な言葉を浴びせてやる。  こうして望み通りのCommandをSubに与えてやるのが、夏野には何よりも快感だった。  ――結局俺にはDom(これ)しかない。これが、落ちこぼれで死に損ないの俺に唯一求められているものだ。もう希望なんて要らない。ただ、誰にも迷惑を掛けずに生きられるのなら、それで……。  Dynamicsを捨てた先に残るのが自身の暴力性だけだと気が付いた夏野は、もう一度Dynamicsに縋りついて生きていこうと決意していた。

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