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第7章 11

 夏野はその日もブラブラと街を歩いていた。幸村の家を出てから、ネットカフェ以外の同じ場所で2日続けて寝たことはない。しつこくそれを求められることもあったが、決して応じることはなかった。  ――そんなことしなくても、相手ならいくらでも見つけられる。  たった2週間ほどの間に、夏野はDomとして相応しい自信を取り戻しており、そんな彼を求める人間は後を絶たなかった。心の底ではそれを望んでいなくても、体に刻まれたDynamicsがお互いに強く反応し合う。  まだ遅い時間ではなかったため、どこかで飲みながら時間を潰そうと思っていたその時、怒鳴り声が聞こえて顔をそちらに向ける。 「だから何で入れねぇんだよ?!」 「……どう見てもあんたの免許じゃないでしょ。無理だって。警察呼ぶよ?」  他人の免許証を使ってクラブに入ろうとする不届きな男がいるらしい。自分のように出入り禁止を食らったことがあるのだろうか。そんな親近感に苦笑いしながらも、夏野は暇潰しとしてその様子を眺めていた。 「チッ……どこまでも使えねぇクソSubだな」  セキュリティがSubなわけないだろう。妙な言いがかりを付ける男の手元に握られた財布を見て、夏野はあることに気が付いた。  ――朝陽と同じ財布……。  どこにでもあるようなシンプルな黒の革財布だったが、一瞬だけ見えた内側の柄に見覚えがあった。海外旅行に行ったときに買った限定品だと話していたのを思い出す。  まさかと思いながらも気付けば男の肩を叩いていた。 「おじさん。……その免許どうしたの?」 「はぁ?だから俺のだって言ってんだろ。ってか、お前なんだよ」 「見せてよ」  夏野は男の手から強引に財布を奪い取り、免許証を確認する。間違いなく幸村の物だ。 「……朝陽は俺の友達なんだけど。どうしたの、これ?」 「チッ……知るか。拾ったんだよ」  財布の中身を見て、夏野は違和感を覚えていた。現金は残っているのに、カード類を触った形跡がある。幸村が財布を落としたのであればすぐにクレジットカードなどは止めるだろうし、使おうとすれば足が付くはずだ。 「おじさん、これどこで……」  夏野が顔を上げると、男はすでに背を向けて歩き始めていた。

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