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第8章 6
幸村はゆっくり体を起こすと、目の前のスマホに手を伸ばそうとする。しかし、いくらそうしようとしても体は鉛のように重く動かず、喉や胸が押し潰されているかのような息苦しさに襲われた。
「あっ……あ……」
声もまともに出せず、このまま死んでしまうのではないかという恐怖に飲み込まれていく。
その時、頭上から鼻で笑う声が聞こえた。
「3回目はねぇぞ。クソSub、おすわりだ」
耐え難い苦痛の中、体は自然と楽な方を選ぶ。つま先を外に向けて尻を落とし、手を前につき、頭を俯けて服従の姿勢を作る。体の中に押し込まれたサインペンが動き、下腹部に気持ち悪さを感じる。
「よくできたな、クソSub。今回だけはお仕置きはなしだ」
褒められたことで、幸村は体の芯から湧き上がるような心地よさを感じていた。DomからのCommandに従い、褒められることで快楽を得るのはSubの本能だと聞いたことがある。
男はタバコに火をつけると、しゃがんで幸村の顔に煙を吹きかけた。
「言え。お前は何だ?Domか、Neutralか、クソSubか?」
「俺は……」
腹が痙攣して声が震える。
「俺は……クソSubです……」
ぎゃはははと笑う下品な声が部屋に響き、幸村は涙を流した。
「出来損ないのお前のためにイイモノ買ってきてやったよ。顔上げろ」
男は買い物袋からローションを取り出すと幸村の頭にそれを垂らした。ひんやりとした感触が額から耳の方へと伝う。
「これから何日も掛けて穴という穴を犯してやる。嬉しいか?」
太い指が耳に触れ、グチュグチュという音を立て始めた。
――あぁ、何で。何で俺は……。
「礼はどうした?礼を言え、クソSub」
――これがSubだって言うのか?こんなことをされるのが……こんなことをされて喜ぶのが……。
「ありがとう……ございます」
そう口にした途端、幸村の中で何かが壊されるような音がした。
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