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第8章 7

 どのくらい時間が経ったのかわからない。永遠に続く苦痛と快楽の中で、もはや時間などはどうだっていいと思い始めていた。  男は一晩中幸村を犯し、蹂躙した。自身の射精に飽きると幸村の体を弄び、何度も絶頂を迎えさせ、痛めつけた。幸村は悔しさも怒りも忘れ、ただただ男からのCommandを求め、足元に縋り付いていた。自分がSubだと思い知らされる度に、幸村の心は晴れ渡るような心地よさを感じるのだった。  幸村はすっかり抵抗する気力を失っていたが、男は出掛ける度に彼の手足をダクトテープで拘束する。信用されていないのが辛くて、幸村は1人取り残された部屋の中でメソメソと泣いていた。  水分しか与えられていないこともあって、幸村の体は衰弱し始めていた。朦朧とした意識は不思議な幻覚を見せる。  暖かい光が差し込む麗らかな昼下がり。キラキラと輝く胡桃色の毛並みが見える。つけっぱなしのテレビから聞こえてくるタレントの話し声を子守唄に、丸くなって気持ちよさそうに眠る姿。  ――夏野、帰ってきてくれたのか。  幸村はじっとその背中を見つめながら心の中で語りかける。  ――でも、ごめんな。俺は出来損ないのクソSubで……お前を助けてやることもできなくて……。今さらSubだってわかっても、どうしようもないよな。どうして俺はNeutralとして生きてきたんだろう。どうして……。  その幻覚は、幸村の中に芽生え始めていた見知らぬ男への服従心を壊し始める。夏野を助けてやりたいと思う気持ちは、ペットとして転がり込んできた日から今までずっと変わらず幸村の中に残っている。  ――いや、だからこそ。Neutralとして生きてきたからこそ、DomとかSubとか俺には関係ねぇよ。夏野はあんなDomとは違う。俺だって……クソSubなんかじゃねぇ。Dynamicsが何だよ。俺は俺だ。  子供の頃にDomだと診断された人間は、その後死ぬまでDomとしての生き方を強制させられる。人とは違うと期待され、敬われ、失望され、蔑まれて生きていく。  そして、その偏見は己の認識をも変えてしまうのだろう。  その人の持つDynamicsは、その人の心や体とは別物だ。夏野はSubとしての幸村にそう語っていたにも関わらず、Domとしての自分の在り方を知らぬうちに決めつけて、それを受け入れられずに憎んでいた。  それがどれほど苦しいことなのか、幸村は今ようやく思い知っていた。誰にも理解されず、1人でもがき続け、そして夏野は諦めてしまった。

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