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第8章 11
夏野は幸村の危機に駆け付けた理由について、話しづらそうにしながらも教えてくれた。クラブの入り口で、幸村の免許証を使おうとして揉めている男を見かけ、後を付けたことを。
「ほんとは、俺もずっと後悔してたんだ。朝陽から逃げ出したこと」
「……逃げ出した?俺は失望されたんだと思ってた」
夏野は唇を噛んで首を左右に振る。
「結構前から、朝陽からSubの気配を感じてた。でも、朝陽をSubだと思うなんて、俺はついに頭がおかしくなったんだと思ってた。それなのに、好きだったから離れられなくて……。それで、俺は朝陽にあんな酷いことを……」
憎々しそうに顔を歪める夏野の手を握ると、ハッとしたように「ごめん」と呟いて優しい笑顔を見せた。幸村を怖がらせないためだろう。
「本当にごめん。謝って済むことじゃないのはわかってる。俺がしたことは、あいつと変わらないことで――」
「それは違う。夏野はあんな奴とは違う。俺は自分から望んで夏野のCommandに従ったんだ。それでお前を助けられると思ったから……勝手なことして、俺の方こそごめん」
幸村はあの時、自分が初めからSubだったらよかったのにと考えていたことを思い出す。しかし、もしもそうなら、きっと夏野と幸村は出会うことすらなかっただろう。
Domとしての自分を受け入れられないDomと、自分をNeutralだと思って生きてきたSubは、不思議とお似合いのような気がしていた。
「夏野、もう自分を責めないでほしい。あの時、夏野は俺に言ったんだよ。支配されたいと思うことに苦しむ必要なんてない。Subは悪いことなんかじゃないって……。俺にはSubとしての自覚はなかったけど、でも、そう言われて嬉しかった。すごく安心できた。……それはDomだって同じだろ?」
幸村は、今度こそ掴んだ未来への希望を絶対に離さないようにと、夏野の目を正面から見つめた。
「2人で一緒に探そう。もう二度と夏野が苦しまなくて済むように、俺たちが本当に幸せになれる方法を。夏野は落ちこぼれなんかじゃないし、俺は出来損ないなんかじゃない。ありのままの夏野が好きだよ。俺と同じ世界に生まれてきてくれてありがとう」
琥珀色の瞳がキラキラと揺れて、胡桃色の髪が甘い香りを放つ。重なった唇は、いつまでも愛を囁き続ける。
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