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第8章 12

「ただいま!ナツ、今日もいい子にしてたかー?」  帰宅した幸村を出迎えたのは、不機嫌そうにジトっと伏せられた琥珀色の瞳と、廊下を塞ぐように伸ばされた脚。 「おかえり。幸村さん遅すぎ。腹減ったんだけど。……あーもう、だから俺を跨ぐな。触んな」  不平を言われても一切気にせず、脚を跨いで膝をつき、その柔らかな胡桃色の髪をでたらめに撫で回す。 「ご機嫌ナナメだなぁ。しょうがないだろ。最後の商談長引いて……。でも、聞いてよ。取れたんだよ、その案件。かなりの大口で。だからお祝いにこれ買ってきた」  コンビニで買ったシュークリームを見せると、夏野の表情は一転して明るく輝く。 「おっ、やったー!すごいな、さすがは俺の飼い主様。営業1課、期待のエース!」 「わざとらしすぎ。現金なペットだな」  楽しそうに笑い合いながらリビングに入り、夏野は料理の盛り付けを始め、幸村は手を洗いながらそれを覗き込む。 「今日の飯は……あ、煮込みハンバーグじゃん。旨そう!」 「幸村さん、何見てもそう言うよな」 「ナツが作ったのは何でも旨いからな」 「まぁ、感想は食ってから聞かせてよ」  得意気な表情を見せる夏野にキスをして、幸村は配膳を手伝い始める。  2人はあれからすぐに十分な間取りの部屋に引っ越しをした。幸村は変わらず同じ会社で営業職を続けていて、夏野はIT系のベンチャー企業で契約社員として働き始めた。幸村の仕事の話を聞いているうちに同業界に興味を持ったらしく、いずれはフリーランスとして独立するつもりだという。  夏野が幸村に生活費として渡そうとした金――Dom性を売って稼いだもので数百万あった――は、一部を2人の新生活の資金とし、残りはDynamicsの研究機関や、夏野たちのように自身のDynamicsに悩む人を支援する海外の団体へ寄付することに決めた。

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