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第14話

雑誌の取材と撮影を終えてから、更にカフェは繁盛してきた。若い女性が中心になって毎日来てくれるようになり、雑誌の影響力を感じていた。 新しいスタッフを迎え入れ、テイクアウトにも更に力を入れており、カフェの経営は順調に回っていた。 千輝はあの日以来キッチンに入ることが多くなっている。簾にホールをお願いしてから、簾目当てのお客様が増えたからだ。 「俺さ、千輝さんとホール一緒に入りたい。簾と一緒だと、動きにくいんだもん」 千輝は営業終了後に暁斗からブーイングを受けていた。暁斗は「ホールでのやり方が」などの理由をつけ、簾と一緒にホールに入るのを拒んでいるが、本当のところは簾が女の子達からチヤホヤされているのが面白くないらしい。 「仕方ないですよ。簾くん目当てが多いですから、ホールに簾くんが出ているとお客さんも多く入るし…あ、暁斗さんもそれなりに人気ありますよ?」 「なんだよ…それなりって」 新しく入ったスタッフにも暁斗は揶揄われて皆でケラケラと笑ったが、当の本人はブスッとした顔のままだった。 「簾さ、女の子から連絡先もらってた。それもほぼ毎日色んな女の子から渡されてる。俺、見たもん」 簾が「イケメンだ」「カッコいい」と、もてはやされているのが羨ましいようだ。 簾は、モデルのように背も高く、キリッとした顔立ちのイケメンだ。しかも、容姿だけではなく周りを気遣うこともできる性格イケメンでもある。 一番身近にいて仲が良いと言われている暁斗だが、隣にいる簾に顔を合わすことなく、プイッと背を向けている。だが、それもまた小動物的な可愛さがあると、スタッフみんなから揶揄われていた。 「仕方ないだろ…俺だって何でこんなに騒がれてるのか、わかんねぇよ」 簾も最近のモテっぷりに少し疲れているようだった。雑誌に載ってからというもの、簾の人気が更に出てきているのは確かだ。元々キッチン担当ではあるが、今はお客様から声がかかるので、ホールに出て対応している日もある。 暁斗だって人気はあるが、小動物のような可愛さを持ち、癒し系アイドル的な存在なので、簾のようなモテ方ではない。 「わかったよ。でもさ、みんな週二日休みでシフトになったし、キッチンスタッフは交代でやることになるし、ホールもね、交代になるからさ。簾くんのホールの出番も今より少なくなると思うよ」 人を雇うことも出来、店も順調に回っているので、交互に休みを取ることが出来ていた。これが軌道に乗ったということだろう。千輝は本当に嬉しく思っている。 「じゃあ、帰るぞ。ほら、早くしろよ暁斗」 今日もバイクで二人は来ていた。なんだかんだ言っても仲良く帰るらしい。 「千輝さん…大誠さんとまだ仲直り出来てない?」 「ほら!暁斗、早くしろよ。行くぞ」 暁斗が千輝を心配し話かけるが、簾が気を使ってくれている。何となく千輝の気持ちがわかっているのだろう。 それに、きっと簾は十和田と連絡を取っているはず。それはわかっていた。それでも何も言わずにそっとしておいてくれている。千輝は簾の優しさを感じていた。 「じゃあ、帰ります!千輝さんまたね!」 千輝も笑顔で手を振って見送り、バタバタと賑やかな若者達が帰って行った。皆が帰ると店は急に静かになる。 千輝はひとり店に残り、新しいメニューを考えたり、人の配置を考えていたら終電近くになってしまった。そろそろ帰るかなと伸びをしたら、千輝の携帯がピコンと光った。 あの日以来、十和田からの連絡は毎日入っている。最初の数日は電話の着信が多かったが、最近はメッセージばかりのようである。あれから季節は変わって今はもうすっかり寒くなっていた。 怖くてまだメッセージを確認出来ていない。だけど、いつまでもこのままではいられないのはわかっている。 そろそろ先に進むために、十和田からのメッセージを開いてみるのもいいかもと、千輝は思っていた。 もしかしたら、結婚することになったと書いてあるかもしれない。考えてみたら、見合いをしたのだから当たり前のことだろう。だけど、そんな報告を目にするのはまだツラいと感じる。 メッセージを開いてみたい、いや開きたくないと、携帯を前に千輝の気持ちはコロコロと変わり、中々踏ん切りがつかなかった。 それでも…と、決意をする。 明日は定休日で休みだ。なので、もしツラいメッセージを見ても、また泣いて今度こそ終わりにしようと思い、携帯のメッセージアプリを開いてみることにした。 毎日何回送ってきていたのだろう。 かなりのメッセージ件数が未読になっていた。 携帯を前に手が震える。 どんなことが書いてあっても受け止めようと思っているが、確認するのが怖い。それでも恐る恐るメッセージを開いてみる。 『千輝、話を聞いて欲しい。見合いは一度だけという条件で行った。俺は受けるつもりはない』 『見合い相手と依頼相手に断りを入れた。初めから一度だけ会うという条件だったから、相手もわかっていたことだった』 雨の中濡れながら帰った日のメッセージだった。見合いをして結婚することではないのかと少しホッとした。 その後もメッセージは続いている。 『小説のネタとして千輝を見ていたことはない。揶揄ったつもりもない。無神経と言われたのはその通りだったと思う。反省している』 『他人を車に乗せて、残り香を撒き散らしそのまま君を乗せてしまったのは、本当に俺が無神経だからだ。すまなかった』 『俺は、人の気持ちを理解出来ていないが、自分の行動も理解出来ていないのだろう。君を傷つけてしまった自分が許せない』 送っている時間はまちまちであった。 最初の数日はそんなメッセージが並んでいたが、少しして内容が変わってきていた。

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