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第16話

久しぶりに十和田の家に入った。もうここには来ないと思っていたけど、自分の意思で戻ってきた。 玄関からリビングに入ると、物が散乱しているのが目に入る。千輝のアパートでは毎日掃除をしていた十和田を知っているので、この状況を見て驚いてしまう。 毎日ご飯は食べていたのだろうか、ビールの缶やお酒のグラスが多く置いてある。少し心配になる程だった。 「大誠さん、どうしたの?リビングだけ?こんなに荒れてるの」 「ああ…明日片付ける」 とりあえず物を少し片付けようとするも、十和田が千輝を離してくれないので、十和田に抱えられるようにソファに座ることになる。 「千輝…会いたかった」 少し痩せたよなと、十和田に言われた。痩せたのは十和田もお互いさまだ。やつれたようにも見える。 「大誠さんごめんなさい。メッセージずっと見れなくて…まとめてさっき見始めた」 そう言うと、またぎゅっと強く抱きしめられる。十和田の胸も痛くなったのだろうか。それもお互いさまなのかもしれない。 「大誠さん…お見合い断ったんだね」 「見合いっていうか、俺のファンなんだと。依頼してきた人に昔世話になったから、どうしても断れなくってさ。とりあえず一回だけ会ってくれって言われてな」 十和田が隣りでため息をついている。ため息をつく姿は初めて見るかもしれない。 「俺が会わないで断ればよかったんだよな。だけど、付き合うとか結婚ってのは本当に断った。そもそも、そのつもりはなかったし。それなのにな…千輝、もう二度と同じ間違いはしないよ。ごめんな」 「大誠さん、もういいよ」 さっき確認した携帯のメッセージで十分、十和田の気持ちはわかった。それに、坂の途中で、好きだとはっきり言われたこともわかっている。 「大丈夫だから…これからの話をしよう?せっかくだから、楽しい話をたくさんしたい」 「そうだな…ありがとう、千輝」 もう散々泣いたから、これ以上しんみりしたくない。それにお互い同じ気持ちだとわかったから、笑い合えるはず。 久しぶりに会えた十和田と、一緒に生活していた時のように呑気で楽しい話をしたかった。 リビングにはスーパーの袋など、買ってきたままの姿で置いてある。好きでよく飲んでいたビールも冷蔵庫に入れず、そのまま袋に入っていた。あまりにも十和田らしくなく、千輝は改めて驚く。 リビングは荒れてるからベッドで話の続きをしていい?と、十和田に言われ二人でベッドルームに入った。 いつもこの家では二人ベッドで話をしていた。久しぶりだけど、当たり前のような感じもする。リビングと違い、ベッドルームはきちんと整理されていた。 服のままバタンとベッドに二人で倒れ込んだので、ポンっとベッドが浮き沈みする。 十和田の広いベッドは久しぶりで、気持ちがよかった。 「久しぶりにこの部屋に入った」 仰向けになり、天井を見つめながら十和田はボソッと呟いた。 「え?」 「千輝がこの家を出てからずっと、ここには入ってなかったんだ。この部屋はひとりでは広くて、思い出すことが多い」 ボソボソと呟くように話をしている。 十和田もベッドルームに入るのは久しぶりなのかと、それもまた少し驚くが、綺麗に整理整頓されているのも納得する。使っていない部屋だから、千輝がいた時のままになっているようだ。 ふざけた話、真剣な話、笑い合ったこと、なんでもこの部屋のベッドの上で、二人はくっつきながら話をしていた。 明日は休みだ。今日はこのまま色々な話をしようと、努めて明るく千輝は十和田に伝えた。 「千輝、俺は君のことが好きだ」 抱きしめられ改めて言われる。十和田のストレートな言葉にドキッとしてしまう。 「僕も…大誠さんが好きだよ」 キスしてもいい?と聞かれた。 見上げると十和田は不安そうな顔をしている。アパートの暗闇の中では問うこともなかった言葉を、ベッドの上で耳にする。 嬉しい。 身体に血が流れ始めたような気がした。とくんとくんと、心も動き始めているのが、わかる。 好きだと言い、強く抱きしめ、家に連れてきているのに、まだ不安そうにしている十和田に胸がキュッとなる。 千輝は笑顔でこくんと頷くと、ゆっくりと唇が近づきキスが降りてきた。十和田の肉厚な唇が少しカサついている。それに気づいた途端、急に全身が熱くなり、千輝は嬉しいのにまた泣きそうになってしまった。 「何から話しようか」 キスを解いた十和田が千輝に聞いた。 「先輩の話は?」 おでこをくっつけあって、やっと二人でクスクスと笑い合える。

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