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第17話

深夜になってもケラケラと二人の笑い声がベッドルームに響いている。 久しぶりに会うから話は尽きない。 しかも、お互いの想いを伝え合った後だから余計に楽しく思える。 「先輩って呼んでるからおっきい犬かと思いました!シベリアンハスキーとかだと思ってたけど、ポメラニアンなの?」 「そうだよ。ポメラニアンのチロ先輩。今度会いに行こうぜ。あ、あの木が植えてある家だよ。何だっけ?冬に黄色の花が咲く木。あの家に先輩は住んでるんだ」 「あの木の名前は蝋梅(ろうばい)っていうんですって。さっきメッセージに送ったんですよ」 十和田がぎゅっと千輝を抱きしめた。 抱きしめられるのは、もう何度目になるだろう。ベッドの上でずっと抱きしめられている。 「さっき何度もメッセージ見直したよ。千輝だよな?って…何度も読み返してたら、もしかして近くに来てるのかもって思って家を飛び出して行ったんだ」 キスをされる。 目を開けると十和田は笑っていた。 もう迷わずこの人に飛び込もうと、千輝は決めていた。 「俺は君のことが好きだ。離れている間に何でこんな気持ちになるのかって考えたよ。最初は、イライラしてひとりで部屋で酒を飲んでばかりだった。だけどな…その後、急に不安になったんだ。離れている時に千輝に何かあったら俺はどうしたらいいんだって。そしたら次は心配になった。仕事は忙しいのだろうか、元気に暮らしてるだろうかってさ…あの雨の日に、千輝を泣かせた俺がそんな心配するなんて、図々しいけどな…」 十和田は何か思い出すように、話始めた。 「突然一緒に生活するようになっただろ?他人との生活は初めてだけど、君との生活は楽しかったって考えてたんだ。だからひとりになって呆然としたけど、こんな時、君ならどうするかなとか考えたんだ」 朝起きてから夜寝るまで、千輝と過ごした日々を思い出し、記憶をなぞるようにして、二人の生活をやり直してみたという。 「何をしていても君のことを考えてしまう。離れてるのは不安だった。会いたい、会って抱きしめて、この想いを伝えたいってな。それでやっと俺は君が好きなんだって気がついた。遅いよな」 いなくなってからようやく大切な存在だったことに気づいた。会えない時間が長くなればなるほど千輝の事を好きだと実感すると言っている。 「君が作ってくれた食事を思い出して作ってみたよ。見事にどれもこれも失敗してさ。美味しくなかった」 クラムチャウダーも作ったぞと、笑いながら言っている。器用な十和田だからそんなに失敗はするはずがない。千輝のアパートでは毎日、十和田が作ってくれていたのだから。 「ひとりだと夜は長いんだ。千輝のアパートに二人で一緒にいる時は、早く夜にならねぇかなって思ってたんだ。夜になれば…電気が消えれば、君にキスが出来るってずっと思ってた。それなのにな…離れてから、ひとりになって時間がありすぎて、夜が長くて困った。仕事終わったかな、迎えに行きたいな、千輝泣いてないかなって考えてさ。勝手に心配されて千輝は迷惑だろな、とかも考えてたな。夜になると特に胸が締めつけられる思いをした」 恋愛は面倒だと言っていた十和田から聞くとは思えない言葉だった。 「僕も…夜が長く感じて、夜が来るのが嫌だった…」 千輝…と、名を呼ばれ抱きしめてくれる。あんなに泣いたのにまた泣きそうになる。 十和田が「ごめんな」と耳元で何度も囁いている。 夜、アパートでひとりで寝るのが嫌だった。寂しくて悲しくて、はやく朝がくればいいのにって思っていたと伝えた。 十和田の匂いがする布団で寝るのも辛かったのに、匂いが薄れていく布団に寝るのも寂しくて辛かったと、千輝が笑って言うと、また抱きしめられる。 「君のことはもう離したくない。ずっと俺のそばに置いておきたい。千輝を不安にさせることはしないから。それは約束する」 明け方まで話は続いた。キスをして、話をして繰り返しているうちに少し寝ていたようだ。 気がついて起きると、隣に十和田が寝ていた。寝顔を見るのも久しぶりだった。 よし、と千輝は気合を入れ起き上がり、荒れてるリビングに向かった。

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