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第18話

ベッドルームから大きな音が聞こえて、千輝は身体をビクッとさせてしまった。 何事かと思いベッドルーム向かおうとしたら、そこから大きな男が先に飛び出してきた。 「千輝!いなくなるなよ…」 寝ぼけているのか、どうなのかわからないが、飛び出してきた十和田に千輝は強く抱きしめられる。 隣にいたはずの千輝がいなくなっていたので、アパートに帰ってしまったと思ったらしい。 「あはは、ごめんごめん。大誠さん寝てたからいいかなって思って…片付けしてました」 「頼む…これからは絶対、起こしてくれ」 昨日、離れるのも惜しくてそのままベッドで二人で寝てしまった。リビングもベッドルームもどこもかしこも掃除をしたい。そう思ってた千輝は起きてすぐ片付け始めていた。 初めてここに来た時に、十和田が千輝に買ってくれた服や日用品が、捨てられずそのままキチンと整理されていた。リビングやキッチンは荒れていたけど、千輝の物は大切そうに置いてあるのを見て、また胸がキュッとする想いをした。置いてあった服に着替え掃除を始めた。 リビングを掃除し、バスルームに移り掃除し、そのついでにシャワーを浴びて出てきたところで十和田が起きてきた。 そう伝えたら、また十和田はくっついてきて離れない。それはそれで嬉しいけど。 「だから、大誠さんもシャワー浴びてきて。お腹すいたでしょ?何か作っておくから」 「食べ物、何もないぞ。だからって買い物にも行かないでくれ。頼む」 ぎゅっと、後ろから抱きしめられている。手に力が入るのを感じる。十和田の頭が首筋に当たりくすぐったい。 冷蔵庫の中は飲み物だけのようだ。何もないからって、外に買い物には行かないで欲しいと言うので、どこにも行かないと笑いながら約束をする。 「わかったから、はい、お風呂行ってきて下さい。ここにいますから。髭も剃ってきてくださいね」 渋々バスルームに向かう十和田の後ろ姿を見て、千輝は笑った。昨日からストレートな言葉と態度に振り回されている。 冷蔵庫の中は、見事に水と少しの飲み物だけだが、冷凍庫から、しらすを発見した。 随分前に千輝が小分けにして冷凍していたものだ。キッチンの棚からは乾燥ワカメとお味噌、かつお節それとお米が見つかる。これも千輝がストックしていたものがそのまま残っている。 どこにも行くなというので仕方ない、これを使ってひとまず食べれる物を作ろうと、土鍋でお米を炊き上げることにした。 キッチンを片付けながら、食事の支度をしていると、十和田がキッチンに来る気配がしたので振り返る。そこにいた十和田はシャワーからすぐキッチンに来たのだろう。髪も身体も濡れたままであった。その格好でまた後ろから千輝に抱きついてこようとしている。昨日、お互いの想いを伝え合ってからというもの、十和田は千輝を離してくれない。 愛情表現もワイルドというか、とにかく本人は意識せず自然な行動なのだろう。しかし、千輝は昨日から初めてみる十和田ばかりで面食らっている。 「大誠さん、ご飯作ってるからリビング行ってて。ソファからならキッチン見えるでしょ?」 「わかった」と言うが中々離れてくれない。もうすぐ土鍋のご飯が炊き上がる。 「先輩は、こんな時どうするんだろ…」 千輝が呟くと、後ろでピクッと十和田が動くのがわかる。その後、二人でクスクスと笑い出した。 「千輝、こんな時に先輩の話を出すのは、ズルイだろ」 「いや…先輩ならどうなのかなって思っただけですよ」 本当はわかってる。 十和田が甘い空気を出してきているのを。 キスをして抱き合って寝た。だが、昨日は会えなかった時間を埋めるように、気持ちを確かめ合っていたから身体を繋げ合うことはしていない。 キッチンで甘い雰囲気を出す十和田に戸惑ってしまう。身体を繋がたい思いはある。今の十和田ならぐずぐずに甘やかしてくれるだろう。だけど今は何だか恥ずかしい、そして少し怖い。だからふざけてチロ先輩の話を出してしまった。 そんな千輝の気持ちが伝わったのか、十和田は抱きしめていた手を緩めた。 十和田はそのままソファには行かず、キッチンで自分も手伝うと言い出す。手伝う程の料理ではないのでと言うと、片付けをし始めた。 自分の飲み終えた空き缶やボトルを見て、十和田は驚いている。 「かなりの量飲んでたな。ほとんど食べないで、酒ばっかり飲んでた気がする。ゴミ捨てはしてたつもりだが、それでもこんなに飲んでたか…俺、やべぇな」 「そうですよ。リビング片付けてて、思いました。心配になっちゃいます」 昨日も感じだが、十和田は少し痩せたと思う。左利きの人は繊細というのは本当かもしれない。 しらすおかか醤油のおにぎりと、わかめの味噌汁を即席で作った。十和田にお願いしてリビングテーブルまで持って行ってもらう。 「このおにぎり、執筆中によく出してくれたやつだろ?これ好きでいっつも食べてたな。思い出すよ」 「簡単に食べられるものってリクエストでしたよね。大誠さんって書いてる時、パンよりお米の方が進む感じだったから、いつもおにぎりにしちゃってた」 そんな話をすると、また十和田が千輝をじっと見つめるから身体が熱くなってしまう。早くご飯を食べましょうと言い誤魔化したが、十和田は余裕ある笑顔を見せ、千輝の頬をひと撫でした。 無自覚な男は自覚すると… まだ無自覚に行動するんだなと思う。

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