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第19話

即席の朝ごはんだったが、お腹が満たされたことで、何となく昨日よりも二人の会話に余裕が出てきたように感じる。 リビングのソファに座り、これからの話をしたいと十和田に言われた。 「千輝、ここに来て俺と一緒に生活して欲しいと思っている。お願い出来ないだろうか」 「ここって、大誠さんの家にですか?」 「君が好きだ。もう離れたくない。君を不安にさせたくもない。俺はこんな気持ちになるのは、一生に一度だと感じてる。これから先は、ここで千輝と共に暮らしていきたい。恋人として、人生のパートナーとして俺と一生を過ごしてくれないだろうか」 離れている期間を飛び越える勢いの言葉を並べる。無自覚で無神経だった男が、自分の気持ちを自覚した途端、逃がさないぞとばかりに言葉と態度で攻めてくる。 以前の十和田も好きだが、自覚した後の十和田の姿が必死で胸がキュッとしてしまう。昨日から何度、この思いをしているのだろうか。愛おしく感じる。 しかし、十和田の口からスラスラと愛の言葉が出てくるので、千輝は恥ずかしくて、嬉しくて、そして少し困って照れてしまった。 「大誠さん、急に色んな言葉を言い始めるから。もう、何だか照れちゃって…一緒に暮らす?」 「ここがダメなら、千輝のアパートに俺を置いてくれないだろうか。もちろん、千輝のご両親にも挨拶に行く。ダメか?」 「いや、そういうことじゃなくて…」 目の前の十和田を見ると不安そうだが、ジッと千輝を見て返事を待っている。大きな犬が『待て』と言われているような感じだ。 十和田は、言葉よりも態度や行動が先に出る。今までもそうだった。何も言わないからわからなかったが、態度や行動は全て千輝のためを思ってしていたことだと、今更ながらわかる。 自惚れかもしれないかな、いや、そうでもないなと、千輝はぐるぐると頭の中で考えて答えた。 「その…一生を過ごすとは…それは…プロポーズみたいなもの?」 「そうだ!それだ、プロポーズだ!全く俺の頭の中にはプロポーズという言葉はなかったが、それだ…間違いない。その言葉がしっくりくる」 俺は作家失格かもしれないと、ブツブツと自分に文句を言っている。恋愛関係の言葉は十和田の中には無いのだろう。ミステリー作家だからまぁそうなのかもしれない。 「千輝、好きだ。結婚してくれ」 「だから…結婚は男同士無理でしょ?」 また…と千輝は内心で笑ってしまった。プロポーズという言葉を聞いてすぐ、それは結婚だ、求婚しなければと十和田は思ったのだろう。すぐに言葉に出して伝えなくてはと思ったのだ。 自分の気持ちを自覚したらしたで、もしかしたら大変なことになったかもしれないと、千輝は思い始めている。 だけど、嬉しいことには変わりない。大好きな十和田から真剣な言葉を貰うのは本当に嬉しい。 「結婚は難しいけど、プロポーズは謹んでお受けします。不束者ですが末永くよろしくお願いします」 ぺこっと頭を下げたその上で、「よし!」と大声で十和田は叫んでいた。 「家はどっちだ?ここ?それともアパートがいい?」 「あそこはひとり用のアパートなんです。だから、ここに来るかな…これからゆっくり荷物を運びます。僕も仕事があるから休みの日にちょっとずつ運んで…」 「ダメだ。今すぐにやろう。千輝は気にするな、俺が全部手配する」 「もう…」 愛おしい。大きな犬が大きな尻尾を振っているのが見えるよう。真っ直ぐに千輝だけを見て嬉しそうにしている。 千輝から手を伸ばして十和田の身体を引き寄せた。大好きな人の匂いを全身で受け止めることが出来るのも幸せだ。慣れない言葉を聞くことになって、なんだかくすぐったい気持ちもあるけど、恥ずかしがってばかりいないで、嬉しいということを十和田に伝えたいと思う。 「千輝…」と呼ばれながらソファに押し倒される。 唇と頬、おでこにキスをされた。昨日迄のキスより深いキスが唇に落ちてきて、唇が濡れていくのがわかる。 首筋にキスをされた時、熱く痛い感覚が走り、思わず千輝は声を漏らしてしまった。それは、皮膚が焼けるような熱さが気持ちいいと、十和田が乱暴に教えてくれている。 十和田に上から覆われて身動きが取れない状態のまま、唇にキスが続く。本気で千輝を食い尽くそうとしている気がする。 十和田の本気が少し怖い。 それでも、その本気を期待している自分がいるのも知っている。この人に食べられてしまいたいと願う自分もいる。 上からきつく抱きしめられ、下半身にゴリッとした感触を感じた。十和田が千輝に欲情しているのがわかる。 お互いの下半身が服の上から擦れ合う。更に強く擦り付けられて、反射的に高い声を千輝は漏らしてしまう。 十和田は千輝のシャツを脱がし、自分のTシャツも脱ぎ始めた。素肌で抱き合うのは初めてだった。十和田の肌が熱くて気持ちいい。自分の肌が冷たいとわかる。 強いキスが唇から首筋に下がり、十和田の肉厚な唇と歯が首にあたるのを感じた。齧り付くように唇で皮膚を引っ張り上げられる。このまま、食べ尽くして欲しいと、千輝は両手で十和田の背中を抱きしめた。 「千輝…」 耳元で名を呼ばれるのがこんなに嬉しいことだと千輝は初めて知る。 深いキスを繰り返し、千輝の腰に十和田の手が伸びた時、玄関のチャイムが鳴った。

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