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第21話
財布を捨てたと聞き、お金とカードはどこだと探したら、ビニール袋に入って玄関に置いてあった。ゴミと間違えなくてよかったと安心したが、一歩間違えて捨てていたらと恐ろしくも思う。
そのビニール袋を掴み、パソコンと一緒にバッグに詰め込んで十和田に渡した。
確か捨てたと言っている財布は、このバッグと同じで、ハイブランドだったなと思い出し、また恐ろしく思った。
太田が運転した車に乗って十和田が出発してから大忙しで、千輝は必要な物を段ボールに詰め込んで行く。とりあえず一泊分の着替えはバッグに入れ渡せたが、着替えはどれだけあればいいのか見当がつかない。足元は、ビーチサンダルで出て行ったし。
昼近くなり多くの店が開け始めたので、駅前の観光客で賑わう店に駆け込んだ。とりあえず、十和田の財布を買い、ビニール袋から入れ替えしてもらおうと千輝は考えていた。
もしビニール袋のまま無くしたらと思うと不安で仕方がない。無頓着な男だから、無くしても気にしないはずだ。
しかし、入った店が失敗だったのか、観光客向けの店だから仕方がないのか財布は、ちりめん長財布か、がま口の財布もしくは西陣織の財布しかない。外国人観光客向けの和雑貨が人気だからそれはわかる。
隣の店も見たがみんな同じような感じだ。
しかし、出来れば今日の午後一番までに荷物を送りたいので時間がない。他の店を見る余裕もない。
確か、カードも小銭もお札もビニール袋にまとめて入っていたはず、少し大きめの財布じゃないとダメだと考える。
がま口財布では全て入らず無理、派手な柄のちりめん財布を十和田に渡すのも気が引ける。西陣織の財布も同じ理由で渡せない。
ふと目に入った物があった。
子供が首から下げる財布がある。いや、ポーチというのだろうか、これならカードもお金も全て入る大きさだ。しかもファスナーも付いているからちょうど良い。
動物の顔シリーズであるが仕方がない、ビニール袋よりはいいだろう。それにもう時間がない。
とりあえず、次の財布を買うまでこれで我慢してもらおうと思い、千輝はそのシリーズの中から犬のキャラクターを選んだ。可愛らしい犬の顔に、首から下げる紐が付いているポーチを買った。
急いで犬のポーチも箱に詰め込み、太田宛にコンビニから荷物を送ることが出来た。コンビニ前で一息つき、携帯を開くと十和田からメッセージがたくさん入っているのが確認できた。
『千輝、ごめんな。ゆっくり出来なくて』
『頑張って早く帰るから』
『家にいる?』
短いメッセージがいくつも入っていた。よく確認すると電話もかかってきていたようだ。忙しく動いていたので全くわからなかった。恐らく、車の中から電話してきたのだろう。着信時間は出発してすぐの時間だった。
最後のメッセージは、『ホテルに到着した』だった。出版社は東京にある。ここは都内への通勤圏内だから、都内のホテルまでそんなに離れてはいない。渋滞もなくすぐ到着したようで千輝は安心した。
『おつかれさま。頑張って下さいね』と、
千輝はメッセージを送り、携帯をバックに入れた瞬間、電話が鳴った。
「千輝さん、今電話してていい?」
電話の相手は簾だった。意外な相手で驚き、次の瞬間に何かあったのかと慌てる。
「簾くん、どうしたの?何かあった?」
「あのさ…さっき大誠さんから連絡があって、千輝さんのアパートの荷物を全部大誠さんの家に運んどけって言われてさ」
千輝が財布を探している間、メッセージも返さないため十和田は恐らく、また千輝がいなくなったらと、心配になったのだろう。
簾に連絡して荷物を全部、十和田の家に持っていって欲しいと頼んだそうだ。荷物を持っていけば千輝は十和田の家にいるのがわかり安心するからだ。
しかし、十和田に言われ簾は困っているはずだ。相当無理なことを言われていると感じる。
「いや…なんかごめんね。休みなのに無理なこと伝えたようで。こっちは大丈夫だから、大誠さんに伝えておくからいいよ」
「や、そうじゃなくて。千輝さん今どこ?ちょっと会える?暁斗も一緒なんだけど」
「えっ?今ねコンビニの前だよ。今からアパートに向かおうとしてただけだから、会えるよ?」
「よかった。出来れば千輝さんのアパートでもいい?そっち向かっていい?」
「あっ、うん。いいよ。じゃあ着いたら連絡して。僕はこれから電車に乗ってアパートに向かうから」
簾と暁斗が千輝のアパートまで来ることになった。十和田が無理を言っていたとしたならば、悪いことしたなと思ったが、何だかそうでもないらしい。
とりあえず二人に会って話を聞くかと、千輝はアパートに急いだ。
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