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第30話【R/A】

いい天気になってよかった。バイクで出かけるのもそろそろ寒くなってきたが、今日は天気がいいので気持ちがいい。 ダブルデートの待ち合わせ場所のカフェに到着した。海外の写真集に出てきそうな雰囲気の店だ。フォトジェニックに力を入れSNS映えするおしゃれな空間だなと簾は思った。 「暁斗くん!こっちだよ」 店に入って早々に声をかけられた。待ち合わせの時間には遅れていないが、女の子達は先に到着していたのだろう。 「結衣ちゃん、お待たせ。待たせちゃったかな?ごめんね」 暁斗が結衣に声をかけた。 「私達、ちょっと早くに着いてたんだ。だから大丈夫だよ」 結衣は小柄で可愛らしい印象だった。特段に美人ではないが、ハキハキとして明るい雰囲気の女性だった。 こんにちはと簾は結衣に笑いかけながら、席に座った。ソファ席なので座ると沈む感じがする。 「簾くん、今日はありがとう。一緒にご飯を食べれるなんて嬉しい。あ、私が暁斗くんを誘った結衣です。こっちは友達の空です」 「空ちゃんは、青空の空?」 ニッコリと笑いながら、簾が空の名前を聞く。 「そ、そうです。漢字はその空です」 「へー、いい名前だね。俺は簾です。よろしくお願いします。こっちは暁斗です」 「お、俺がお前を誘ったんだろ?何でお前が誘導するんだよ!あ、暁斗です。よろしくお願いします」 暁斗がしどろもどろになり挨拶をしていた。可愛らしい暁斗の姿を見て簾はクスッと笑ってしまうが、その笑いで場が和やかになった。 暁斗の話では、結衣の友達が簾と知り合いになりたいと言っているようだが、空は少し大人しい感じの女性のようだ。積極的に簾と友達になりたいというタイプではない感じがする。 「おしゃれなカフェだね。いつもここに来るの?」 簾が笑顔で結衣に尋ねた。 「そうなんです。ここはフォトジェニックなカフェなので、SNS映えもするし人気なんですよ」 「へぇ…フォトジェニックか。いいね、写真撮る?結衣ちゃんと空ちゃんの二人を撮ってあげるよ」 笑顔で簾は二人を写真に撮ってあげた。「一緒に写真撮りましょう」と言う結衣に、後で撮ろうねと笑顔でやんわり断る。 何を食べようかと四人でメニューを見るが、パステルカラーのパンケーキやスイーツ、サラダボールやピクニックボートなる名前の食べ物が並んでいた。どれもこれも、写真を撮りSNS映えを目的としたような食べ物に見える。 「可愛いメニューがいっぱいだね。いくつか選んでシェアして食べようか?その方が写真をたくさん撮れていいんじゃない?」 と、簾が提案すると結衣は「さすが!簾くん」と食いつき気味に言い、簾と二人でいくつかピックアップしてオーダーすることにした。 「空ちゃんは?苦手な食べ物とかある?この辺だと何が好き?」 メニューを指して色々と聞くが空は「何でも大丈夫です」と言いオーダーは任せると言っている。それでも簾は笑顔で話しかけて、好きな食べ物を聞き出していた。 「じゃあ、結衣ちゃんのオススメと、空ちゃんの好きな物にして…あ、後この辺いいんじゃない?可愛らしいよね見た目が。で、暁斗は?お前何か食べたい物ある?」 さっきから色々と口出しはしていた暁斗だが、結衣にダメ出しをくらっていたので、簾が助け舟を出してあげた。 「俺?うーん、任せるって言いたいけど。これは?簾、こうゆうの好きじゃん」 暁斗が指をさしたのは、この店の中で一番地味なメニューのコーヒーゼリーだった。 確かにそれは、このメニューの中で一番いいかなと、簾が思っていたものでもあった。 「そうだな。よし、じゃあご飯はこの辺にしてその後にスイーツ食べようか」 「簾くんって、カッコいいし気が効くよね。なんか頼もしい感じがする!ね、空もそう思わない?」 結衣が楽しそうな声を上げて、はしゃいでいる。いつも暁斗や千輝と一緒にいるため、女の子の高いテンションに簾は少し戸惑いがあった。 だけど、今日の目的を果たすためには、我慢をして付き合っている。 目的とは、暁斗を女の子から引き離すことだ。 「そんなことないよ。気が効くんだったら待ち合わせより早く到着してるって。今日は待たせちゃってごめんね」 簾がまた笑顔で結衣と空に伝える。結衣は、そんなことないよぉと言い、空は黙ってニコニコしていた。 「簾は気が効くよ?いつも俺より先に気がついて家事をしてくれるし、家で何となくこれ食べたいなって、俺が考えてる物を作ってくれたりするじゃん」 ナチュラルに暁斗に褒められて簾は内心動揺してしまう。一緒に住んで日は浅いが、暁斗が思っていたことが聞けて嬉しい。 「えっ?二人で一緒に住んでるの?」 結衣がびっくりしたように聞き、続けてどこに住んでいるかと具体的に聞いてきた。 「そうだよ。二人でルームシェアしてるんだ。住んでるのは結構遠くに離れてる所。だから、バイクで移動してるんだよ」 暁斗が馬鹿正直に何でもかんでも答えないうちにと、簾がすかさず言う。住んでる場所なんて教えるわけがないだろと、心の中では毒付いていた。 料理が運ばれてきた。SNS映えするというだけあって、料理も皿も奇抜な印象だ。 早速、結衣は写真を撮っている。ひと通り写真を撮り終わるまで待つことになる。 「じゃあ、食べようか」 と、簾が皿に取り分け始めた。 ◇ ◇ 「初めて簾くんをカフェで見た時、モデルさんかと思ったぁ。カフェでキッチンなんてやってるのもったいないよ。絶対モデルさん出来るのに。お洋服だっておしゃれだし…ほら、今日のジャケットもすっごくカッコよくて簾くんに合ってる。めっちゃクールだよ」 「モデルなんて、そんなことないよ。服だってさ、これは俺の憧れの人から貰ったんだし…」 十和田に貰ったシングルのライダースジャケットを着てきた。それを見て褒めてくれたけど、言われれば言われるだけシラけてくるのは何故だろう。 食事が終わり各自でスイーツを頼んだ。簾はもちろんコーヒーゼリーにした。暁斗が簾を想像してくれたものだ。頼まないわけがない。 隣では暁斗がカラフルなパンケーキを食べている。可愛らしいパンケーキは女性に人気なんだとか。 基本的に結衣と簾が話をし、暁斗と空は頷き聞き役となっている。時間が経つにつれ少し砕けた感じになってきたので、食事中もその後も話が弾むダブルデートだと、側から見たら思うだろう。 「簾は見た目もいいしさ、何着てもカッコよくなるんだよ。背も高いし…でも、こいつはカフェのメニューを考えてるからキッチンにいるんだ。いつも周りを考えながらメニュー作ったりしてさ、だからキッチンにいる簾がカッコいいと俺は思うよ」 もぐもぐと、パンケーキを食べながら暁斗が結衣に伝える。多分、暁斗本人は何も考えずに言葉を放っていると思う。結衣が言った『キッチンなんかに』という言葉を無意識に否定している。 「そうなんですね…カフェのメニューを考えたりしてるんですか」 空がひとりで呟くように言った。 「あ、うん。そうなんだ。冬のメニューも今考えてるところなんだけど。空ちゃんは、うちのカフェ来たことある?」 コーヒーゼリーは、可もなく不可もない。もう少しコーヒーの深みがあってもいいのにと思ってしまう。 「えっ、あ…はい、そうですね」 簾から聞かれた空は少し慌てたようだった。結衣の友達は簾と知り合いになりたいと、暁斗が言っていたので、空はカフェに来て簾を見かけていたはずだが、違うのだろうか。何だかおかしいなと簾は思った。 ちょっとトイレ行ってくるねと、暁斗が席を外した瞬間に結衣が簾に向き直った。 「私と簾くんは何だか気が合うよね。食べ物も同じような物選んでたし。私、簾くんと友達になりたいな。連絡先交換してもいい?」 「結衣ちゃんは暁斗とデートしたかったんじゃないの?」 「うーん…暁斗くん、ちょっと幼い感じじゃない?話題も豊富じゃないし、一緒にいても退屈しちゃう。私とは釣り合わないかも。でも簾くんは色んなこと知ってて、カッコいいなって思ったんだ。実は…最終から簾くんと友達になりたかったんだよね。私、簾くんとなら付き合ってもいいなって思う!ねぇ、今度二人でどこか行かない?」 ため息が出る。自分のことなら何にも気にしないが、暁斗のことを否定されるのは気分が悪い。それに、人の気持ちを無視して勝手に付き合うって話になるのはどうだろう。 「へぇ…俺はただ話を合わせてただけだけどね。暁斗の頼みだから来たけど、そうじゃなかったら来なかったよ。それに、結衣ちゃんとは気が合うとは思えないな。俺のタイプでもないし」 簾は冷たく言い放った。そんな簾の態度に結衣の顔が引き攣っている。目を引く美人ではないけれど、愛嬌があって明るく可愛らしいが、よくよく見ると胸元が開いた服を着ている。最初からアピールだらけだったのかと今になってわかる。簾を簡単に落とせるとでも思っていたのだろうか。 滑稽だ。ばかばかしいと、余計に冷ややかな目で簾は結衣を見ていた。 「え、えっと…そうかな、今日は楽しかったと思うんだけど。簾くんとなら、これからも楽しくお付き合いできるかなって…」 「それは無いな。楽しく付き合えると思えないよ。じゃあ、今日はありがとう。これでお開きにしよう。あ、この後暁斗には一切連絡しないでね。こっちも連絡先も消しておくから、結衣ちゃんも消しておいて。もう会うことも、食事を一緒にすることもないし」 結衣に向かい更に冷たく言い、簾が支払いを済ませるため、席を立つ。その間、入れ違いで暁斗が席に戻っていたらしく、空が必死に何かを暁斗に伝えていた。 カフェで働いていなかったらもっと冷たく酷い言葉を投げかけていただろう。でもまぁ、これで縁が切れたと思えばよかった。暁斗の周りをウロつくのを阻止できたと思う。目的を果たすことは出来た。 じゃあ行こうかと、促し結衣と空と別れた。 暁斗をバイクの後ろに乗せとりあえず走らせる。もうすぐ夕方になる。日が沈むまで後少しだ。どこに行こうかなと思いながらバイクを走らせているのは楽しい。 少しすると海が見えてきた。 十和田とよく二人でツーリングした時によった海だった。暁斗と一緒に来たのは初めてだ。地元の海は好きだ。 「おしゃれなカフェだったよな。女子はみんなあんなのが好きなのか…俺、よくわかんなかったよ」 あまり風が吹いていないので寒くはない。海の音が心地いい。暁斗が呟く声も途切れずに聞こえている。 「女の子とのデートはどうだったんだよ。お前がやりたかったことだろ?」 意地悪な質問だと思ったが、簾は暁斗に聞いてみた。 「うーん…俺はもう今はいいかな、デートも彼女も。大変だよな、あんなおしゃれな所に行って、カラフルな食事してさ。写真撮ってとか、やることいっぱいだろ?」 「だよな。悪いけど、俺にはピンとこないカフェだった。おしゃれだとは思うけど、なんかしっくりこねぇよ。料理も味も何となくぼやけてたし」 「女の子はどうだったんだよ。お前は、なんでも紳士ぶりやがって。レディファーストっていうの?会話もスムーズでさ、女の子喜んでたじゃん。簾くんカッコいいって言ってさ…」 ぷぅっと膨れている。暁斗から誘われたことだったのに、暁斗を立てずに余計なことをしてしまったかもと、簾は少し反省していた。暁斗の周りをウロチョロさせないために必死だったとは言えない。 「どうもないよ。俺は話を合わせてただけだし…お前といるほうが俺は楽しいよ」 「俺も、お前と遊ぶ方が楽しい」 暁斗が振り返って笑いながらそう言った。よかった、今日も暁斗の笑顔が見れた。 「よし、家に帰ってゲームでもやるか」 海に陽が沈むのを二人で見てからバイクで帰る。帰るだけなのに楽しいのは、同じ場所に二人で帰れるからだと知っている。 ◇ ◇ ダブルデートをした日から少しおいて、閉店に近い時間に空がカフェに来た。 簾はキッチンに入っていて、ホールには千輝と暁斗がおり、暁斗が接客をした。 「クラムチャウダーが美味しいって聞いて来たの。ごめんね、暁斗くん。私、ここに来るのは初めてなんだ。この前のこと、簾くんにも悪いことしたって思ってる。謝りたいと思って来たの」 オーダーはクラムチャウダーだった。他にはお客さんもいなくなっている。千輝が気を利かせて、暁斗と簾に席に行っていいよと言ってくれた。 簾は特に話をすることもないので、席にはいかなかった。ただ、暁斗が話している内容は気になる。 「簾、空ちゃんがちょっと話したいってさ。俺、コーヒー入れてあげるからその間、行ってやってよ」 暁斗がそう言うので、渋々簾は空がいるテーブルに座る。 「簾くん、この前はごめんね。それと私、ここのカフェに来るのは今日が初めてなんだ」 「知ってる。この前、話をしてそう感じたから」 簾は、冷ややかな目で空を見る。千輝が心配そうにしているのも、目の端に見えている。 「クラムチャウダー美味しかった。こんな美味しいもの出してるカフェで働いてるなんて、この前のカフェじゃ物足りなかったでしょ。結衣も失礼な態度だったし、ごめんね」 「そんなこと言いに来たの?別にいいんじゃない?結衣ちゃんだっけ…本人は失礼な態度だって思ってないみたいだし。こっちは気にしてないよ。暁斗の周りをウロチョロしないでくれればいいだけだからさ」 やはり最初の印象と変わらず、空は結衣とは違うようだ。何も言わないが、恐らく空はあの時、結衣に無理矢理連れてこられたんだろう。まぁ、そんなこと関係ないけどと簾は思いながら空を眺めている。 「結衣から簾くんと付き合いたいから協力して欲しいって言われて、すぐにでも付き合えるようなことを言ってたから、知り合いかと思ってたんだけど違ったんだね。よくわかってなかったとはいえ、休みの日に嫌な思いさせてごめんなさい」 「暁斗には?暁斗には何て言ったんだ。まさか、馬鹿正直に今のこと言ってないだろうな」 「言ってないよ。暁斗くんには、結衣が簾くんの仕事を軽く見てる発言したことを謝った。そしたら、わかる人にだけわかればいいよって言って笑ってくれた。暁斗くん、良い人だよね」 「どうでもいいけど、暁斗にも連絡先聞いたりするなよ。とにかくほっといてくれ」 暁斗がカフェラテを運んできた。ハートのカフェアートが入っているので、暁斗が作ったとわかった。 「空ちゃん、これ俺からのおごりね。この前は、おしゃれなお店教えてくれてありがとう」 空は、わぁっと声を上げて喜んでいる。暁斗も簾の隣に座った。 「簾も言ってたけど、空って名前はいい名前だね。清らかな心を持って誠実な人って意味なんでしょ?空ちゃんにぴったりだよ」 「暁斗、何急にイケメン発言してんの?」 「いっ…いいだろ!別に。お前なんかいつも無駄にイケメン発動してんじゃん」 ケラケラと空が二人を見て笑っている。 時間がゆっくり進んでいる気がした。 「二人共、仲がいいですね。ご馳走様でした。クラムチャウダーは本当に美味しかったです。暁斗くん、カフェラテありがとう。アートもしてくれて嬉しかった」 空は丁寧にお礼を言って帰っていった。空が、暁斗には余計なことを言っていないということだけはよかったと思う。 嫌な思いはさせたくない。今は暁斗と二人でいさせてくれと思っていた。

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