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第33話【R/A】

この部屋は暑いからテーブルの上に置いた暁斗が食べるであろうアイスが溶けてしまう。もう一度冷凍庫に入れておこうか、など考えながらゲームを進めている。 「次、お前の番な」 「簾、めっちゃ倒すじゃん。激戦区だったのに。すげぇ」 「部屋、暑くないか?」 コントローラーを暁斗に渡し、アイスを冷凍庫に入れ暖房を止めた。 まだ本格的に暖房を入れる時期ではないが、日によっては、エアコンをつけたり消したりを繰り返している。 コントローラーを渡された暁斗は、既にゲームを始めていた。暁斗は、夢中になると周りが見えなくるので、テーブルに出したアイスを何度も溶かしている。だからやたらと構いたくなり、身の回りのことについ手が出てしまう。 来週からカフェの冬メニューが始まる。 食材も予定していたラディッシュなど調達もでき、準備完了といったところだ。 千輝のカフェはオープンしてから好調であり、人件費やその他もろもろ抜いても 着実に毎月目標売り上げを更新しているという。 固定客も多くなってきている。随分前に出た雑誌の影響で、女性に人気が出たのが、大きかったのかもしれない。 店が人気になったので、簾がやりたいことに千輝は力を貸してくれていた。 メニューや食材など、千輝と話し合いながら自由にさせてくれているところが多い。いつか恩返しを千輝にはしたいと簾は思っている。そんなことを暁斗のゲームをしている後ろ姿を見ながらつらつらと考えていた。 「ダメだ!負けた。強かった...」 ゲームに負けていた暁斗はコントローラーをソファに放り投げていた。 「激戦区に行くからだよ。別のところに行けばよかったのに」 何か飲むか?と聞きながらキッチンに簾は飲み物を取りに行く。 「なあ、簾。千輝さんさ、指輪してたな。あれって大誠さんとお揃いなのか?」 千輝は指輪をしていた。簾も今まで気が付かなかったのかなと思ったが、本人もつけてる指輪を意識しているようだったので、恐らく今日からつけていたのだろう。 千輝を迎えに来た十和田も同じ指輪をつけていたのが見てわかった。 「結婚指輪のようなもんじゃないのか?大誠さんもつけてたし。新しいから光ってて目立つんだよ。千輝さん、これからお客さんに聞かれるだろうなきっと。女子は目ざといから、そういうの」 「だよな…千輝さん絡みだとまた大誠さんがうるさいだろうし。でもさ、結婚指輪ってことはやっぱり、その…ラブラブなんだな、あの二人」 「そりゃそうだろ。あの大誠さんの態度見ればわかるだろ。デレデレっていうか、何ていうか…俺とツーリング行く時とは確実に違うからな態度が」 千輝は意外と店ではクールにしているが、十和田の態度が露骨である。『千輝を独占したい』『俺のものだ』といったオーラを出し続けている。ちょっと千輝と離れる日があるだけで、いつも十和田は大騒ぎをしているのを見ている。 「チューしたりしてんのかな」 「お前、何?羨ましいわけ?」 簾はゲラゲラと暁斗を指差し笑ったが、暁斗は真剣な顔をしていた。 「大誠さんとさ…してんのかなって思ってハグしたり、チューしたり、その…その先とかも...」 「おい…暁斗お前、何が言いたいんだよ。欲求不満かよ。この前は彼女欲しいとか言ってたし。恋人同士のスキンシップがしたいのかよ」 しどろもどろに言う暁斗に簾は、つい強めの口調で言ってしまった。 聞いたところで、また彼女が欲しいだの、デートしてみたいだの言われたらたまったもんじゃない。本当は、欲求不満なのは自分の方なのにと簾は思っていた。 「簾だってしたことないだろ?スキンシップってやつ。どうなんだよ!」 意外と暁斗は引き下がらずに色々と簾に質問を投げかけている。スキンシップと暁斗は言っているが、キスやセックスのことを言ってるのはわかる。 簾は、隣に座る暁斗の後ろに座り直し、その後、暁斗を背中から抱きしめた。 「これな、バックハグって言うんだって。みんな好きなスキンシップなんだってよ。俺は知ってるぞ、これくらい」 「へ、へぇ…ふ、ふーん...」 明らかに動揺して、身体がビクついているのがわかる。ついでだからと、もっと強く暁斗の身体を簾は抱き寄せた。 急に抱き寄せられた暁斗は、体制を崩しぐらっと体重を簾にかけた。その瞬間、簾は暁斗が自分よりも細い身体だとわかる。見た目も簾とは違うが、実際に抱きしめるとよくわかる。 「ひっ!な、なにすんだよ!」 「お前さ、これくらい慣れてないと、恋人同士のスキンシップとか、お付き合いとかできないぞ?いいからこのままでゲームやってみろ。少しは慣れるんじゃないか?ほら、俺も一緒にコントローラー持ってやるから」 我ながら無理矢理、支離滅裂なことを言ってると思う。思うが、きっと暁斗は疑問に思わず簾の言う通りにする自信はあった。 後ろから抱きしめたまま、ゲームのコントローラーを持つ暁斗の手の上にするっと、自分の手を重ねた。 身体は密着するように、暁斗の肩に簾のあごを乗せた。暁斗の身体があったかい。 「よし、ゲーム再開するか」 「お、おう」 暁斗の体温を感じる。好きな人のぬくもりを感じた。初めてかもしれない。 仲のいい友人の一人から一歩抜け駆けして、特別になりたい。暁斗にそう言うと多分「もうなってるよ」と言うだろう。 そうじゃない。 抜け駆けは出し抜きと同じ、ズルイ感情だ。 誰にも渡したくないと言ったら、引かれるだろうか。でもいつか暁斗を自分の腕の中に収めたいと思っている。ズルイ感情だろうとなんだろうと、暁斗を他の誰かに渡さなくていいならなんでもいい。 そう言うと引かれるだろうから、このままでもいいと尻込みしてしまう。 暖房を消してもこの部屋は暑いと感じる。 アイスを出しっぱなしにすると、すぐ溶けてしまう。

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