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第41話
朝から十和田と二人で東京に行った。今日は二つインタビューが入っているという。それが終わったら夜のパーティーまでは空き時間となると、太田から言われた。
スタジオのような一室でインタビューが始まっている。千輝は少し離れたところから十和田を見ていた。
インタビュー用のスーツも買っておいて良かったと千輝はホッとする。ほっといたらTシャツにライダースジャケットで行っていたと思う。それはそれで十和田らしくていいのかもしれないけど、やっぱりビシッとスーツのカッコいい十和田をみんなに見てもらいたいとも思うからだ。
「先生はミステリー作家ですもんね。十和田大誠の恋愛小説はどんな感じだろうってみんな思ってたはずなんです。そしたら意外っていうか…こんなに繊細で、胸をぎゅっと掴まれるような作品なんで、私は読みながら泣いてしまいました。恋人が出て行った後、好きだった食べ物、好きだったことなどを思い出して、ひとつずつ主人公が時間を遡るようにやり直す描写がありますけど、そこでこんなに愛されていたんだと、主人公は気が付くんですよね。それと同時に、この主人公は恋人のことを、ものすごく愛しているっていうのもわかるんですよ!また、この主人公が無自覚にも…それが、もうなんとも言えなくて…」
女性のインタビューアーが興奮気味に聞いているが、笑いながら十和田は飄々と答えていた。
「あはは、俺が恋愛を書くから意外だよな。まあ、確かに昔から恋愛ってよくわからなかったんですよ。だけど最近変わってきたからかな。好きな人がやってくれたことを後からよく考えてみると、ああ俺のためにやってくれてたんだとわかったりして。そんな感じってみんなあるよな?それを書きたかった」
「わかります。だけど、男の人ってほとんどが気がつかないんですよ。俺のためにって気がついた先生はさすがです。それってやっぱり、私生活とダブってますか?作品の中の描写とか。その指輪も気になりますし…ご結婚されました?」
やはり十和田の私生活の話になっていく。
「ああ、これね。最近よく聞かれる。小説の中にも指輪が出てきたからだと思うけど。あっ、いるよ、パートナーは。この指輪はお互いの覚悟と決意の印なんだ。私生活とダブってるかっていうと…うーん、そうだな。俺の恋人に影響を受けてるのは確かだな。例えば、喋らなくても横顔を見てるだけで、俺に教えてくれるような人だからさ」
十和田が笑顔ではっきりと答えている。
「おお、さすが先生、潔くてカッコいい。お相手の方に断然興味が出てきます。それに、覚悟と決意の指輪なんて先生っぽくて素敵です。お幸せなんですね…えっと、ミステリー部分は加賀先生が手がけてました。トリックも今回は加賀先生ですか?」
インタビューアーが軌道修正をし、小説の内容に質問を戻し始めた。
「そうそう。加賀も頑張ってたよ。あいつも初めての取り組みだったと思うけど、案外面白い仕掛けになったと思うんだ。だから、映画化するんだろ?」
和やかにインタビューは進んでいった。いつもこんな感じに仕事をしていたのかと、初めて見る十和田の姿に惚れ直す。インタビューもそろそろ終盤になってきていた。
インタビューアーがまとめ始める。
「そうだな…今回の作品は恋愛ミステリーって言われてるけど…結局、愛してるってこういうことなんだって、主人公が自分の気持ちに気がつくんだよ。見返りを求めることもなく、ただ愛するって気持ちだけで、身体が前に動き出すんだ。俺が伝えたかったのはそこかな。恋って突然始まるってよく言うけどさ、実際よくわかんねぇよな、始まりなんてよ。だけどさ、愛ってじっくりとわかるんだよ。それに動き出したら早いんだぜ、愛って。どんどん加速するしよ。俺やこの主人公もそうだけどさ、男はみんないくつになっても恋愛の初心者だから下手くそなんだよな。でもさ、初心者でも何でも、愛がわかったら、さっさと前に進めよ。見失うなよって感じかな」
十和田が最後に小説のメッセージとしてとそう伝えていた。こんな思いを胸に秘めていたんだなと千輝は感動した。
「凄いですね…愛を知って主人公が突き進む、愛で人を動かすって感じですか。男は恋愛の初心者なんて、先生に言われたらみんなタジタジです。いやぁ、映画も期待しちゃいますよ。それと先生、まさかと思うんですけど、先生の指輪の内側ってアレ入ってます?」
「ああ、アレ?入ってるよ」
スタジオ中から「えーっ!」と多くの声が上がり、千輝はびっくりしてしまった。
隣にいる太田曰く小説の鍵となり、これから映画化されるのでインタビューアーもボヤかして『アレ』という聞き方をするが、みんな十和田の指輪の内側に『指紋』が入っているのかどうか聞きたくてウズウズしていると教えてくれた。
ここでインタビューは終了となった。
「千輝!」と十和田に呼ばれたので近くに小走りで近づき、何?と目で訴えたら「最後のやり取りを使っていいかって聞かれてる」と言う。
最後のやり取りとは、指輪の内側に入っている指紋のことを言っているとわかった。
十和田は単純に千輝に怒られるのが嫌なため聞いているが、他の人は秘書として同行している千輝が判断するのを待っている。
みんなが期待した顔で千輝を見ているので「いいですよ」と答えてしまった。十和田もインタビューアーもみんなホッとした顔をしていた。
「ありがとうございました。大スクープですよ!」と、千輝はインタビューアーに笑顔で言われた。
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