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第43話【R/A】※
今日はゲームをせず、二人でテレビを眺めている。見るテレビは特にないので、眺めているだけだ。暁斗の肩に顎を乗せ、いつものようにバックハグをしながらだ。
千輝は明日、ホールを簾に任せて自分はキッチンに入るようなことを言っていたと、思い出す。
アイスワインを使った遊びをするんだなとすぐにわかる。相変わらず、あの二人を見ていると羨ましいという感情が湧いてくる。
千輝と簾がホール、キッチンを交代することがあると、必ずその後に十和田から簾へ、こっそりフォローが入る。
ツーリングに誘ってくれたり、バイクの部品をくれたり、そしていつも十和田はぶっきらぼうに「おい、簾…ありがとうな」とボソッと言う。
お礼なんて言うから、十和田と千輝の『やってることが筒抜けだ』とゲラゲラ笑って言ったことがあった。
そう言うと『やってることなんて、お前にわかるのか?言ってみろよ』とニヤッと笑い、言い返されてしまう。そんな時の十和田は、大人のずるい顔をして簾を子供扱いする。
余裕ある大人な態度を見せつけられると太刀打ち出来ない。だから最近は、『別にいいよ』とだけ言うようにしている。子供扱いされて悔しい思いもあるから、たまに簾がニヤニヤして十和田を見て仕返しをするくらいだ。
だけど、簾があまりニヤニヤし過ぎると、頭をはたかれる時もあるから注意してる。
そんなフォローも嬉しいが、十和田はいつも簾の漠然とした夢へ真剣にアドバイスをくれている。そっちの方が本当はずっと嬉しくて、十和田には何でも相談してしまう。
兄がいればこんな感じだろうと、いつしか十和田のことをそう思い慕っている。
簾には弟と妹はいるが兄はいない。なので、兄には逆らえない状況のようなものも、十和田との間にはあり、それが何となく嬉しい。
たまに頭をはたかれると、口では『なんだよ、もう』と言ってしまうが、兄には逆らえないなと、くすぐったくなる気持ちがあった。
それに、簾にとっての十和田という兄は偉大で器も大きい。何をするにも憧れる部分があり、男としての目指す目標と、いつしかなっていた。
「大誠さんから貰ったアイスワイン飲むか?」
暁斗もアイスワインを貰っていたから、飲むかと誘う。
「ああ!そうだな…明日仕事だけど、ちょっとだけいいよな飲んでも。デザートだと思えばさ」
断るかと思ったが、案外すんなりと暁斗は食いついてきた。そんなにアイスワインが好きなのだろうか。そうであれば、買い置きしておこうかと簾は考える。
飲もう飲もう!と暁斗が率先してキッチンに行き、グラスとアイスワインを持ってきた。リビングに戻って来ても、簾の前に座るのは自然になってきている。
今日貰ったアイスワインは、スッキリとした甘さだった。喉越しもスルッとしていて、こくこく飲めてしまう。
「この前のは琥珀色だったよな…トロッとしてたけど、これはそこまでじゃないな」
「今日のは、麦わら帽子の色だな。甘くて美味しいけど、またこの前のとちょっと違うんだな…さっぱりしてる」
「麦わら帽子の色って…お前らしいな」
簾が暁斗の言葉にクククと笑う。琥珀色くらいしか色の表現は知らない。それより薄いとか濃いとか、簾だったらそれくらいしか言い方は思いつかない。
それなのに、麦わら帽子の色って。真っ直ぐな暁斗らしい言い方だなと思う。それに、日向の匂いがするのを連想させる言葉は、このアイスワインにぴったりだった。
「な、なんだよ。麦わら帽子じゃん、この色は。他に何色って言う?」
「いや、ぴったりだよ。麦わら帽子だな」
細身のボトルにあったワインを、ほぼ飲み干してしまうことになった。量はそれほど無いにしろ、案外酔いは回るようだった。
今日も二人でふざけ合い、頬と頬をくっつけ合って笑った。簾は暁斗の口の端を意識している。今日も無事、唇の端と端をつけ合うことが出来た。これで偶然ではなくなる。
「な、なぁ…今のってキスだと思う?」
暁斗が振り返ることなく簾に聞いた。耳まで赤くなっている。酒に酔っているからか、恥ずかしいのかはわからない。
「今のってこれか?」
はっきりと暁斗に言われ、最高潮にドキドキしている。引かれて、やめろと言われたらどうしようかと思う。それでも気持ちを止められず、簾はもう一度暁斗の唇の端に、自分の唇を押し付けた。
「そ、そ、そう…これは何かな…って…」
「キスでは無いな」
「へっ?キスじゃないの?違うの?これはキスなんじゃないのか?」
「お前、キス知らないのか?」
「えっ…う、うん、まぁ」
「キスってな…」
こうやるんだよと、暁斗の唇の上に、自分の唇を重ねた。キスだ。キスをした。
押し付けるだけで動かすことはしなかった。酔っているとはいえ、暁斗にキスをすることが出来て感動している。とはいえ、簾は自分の咄嗟の行動に驚いてもいる。
「ふ、ふ、ふぇぇぇ…」
「なんだ?その声は」
あははと大きめの声で簾は笑い、暁斗のほっぺをムニっと掴む。なるべく明るい空気を出そうとしていた。冗談で済ませることもできるように。
「どうだ?初めてキスした感想は」
「えっ…あ、そ、だね。柔らかい?」
ノリでキスをした雰囲気を、ワザと出している。真剣になったら暁斗に嫌われてしまうはずだ。
「柔らかいか?俺の唇はそんなに厚くないだろ。もう一回してみるか?」
なんて答えるだろうかと思ったが、暁斗はこくんと頷いた。何を考えて頷いたのは、わからない。拒否されると思っていたから、不意打ちをくらう。
チュッと今度は音を立てた。その後も唇を離さず何度か角度を変えてキスをした。受け入れてくれた暁斗を無視は出来ない。無理矢理ではなく、合意の上だよなと頭の隅で考えながらキスをした。
「おい、鼻で息をするんだよ。息を止めるな。苦しいだろ?」
そう言い、暁斗の鼻を摘んだ。
「鼻?鼻で息するなんて出来る?えっ?」
パニックになっている暁斗にディープキスをした。何だか急にイラッとした。
イラッとする。自分自身にも暁斗にも。
気持ちが抑えられなく、暁斗に少しづつ要求してしまいそうだ。そんな自分は嫌だけど、抑えられない。悶々とするが、行動にも移してしまう。このままだと後悔しそうだと、堂々巡りで考える。自分自身にイラついてしまう。
暁斗もそうだ。嫌だとは言わない。受け入れるくせに、決定的なことは、はぐらかすような態度をとる。上手くいかない全てに焦りがあり、イラッとする。
暁斗の全てが欲しい。
このまま押し倒して上からキスをしたい。それ以上のこともしたい。
いつもひとり部屋で暁斗のことを考えてしまう。簾の頭の中では、いつも暁斗を押さえつけ、抱きしめてセックスをしている。
このままでは現実でも暁斗に酷いことをしてしまいそうだ。セーブしなければと簾は自分に言い聞かす。今まで大人しくしていたんだ。ここで関係を壊すようなことはしたくない。だから、好きだと気持ちを伝えることは、怖くて出来ない。伝えたくはない。
だけど、腕の中にいる暁斗が、簾の深いキスに応えてきている。頑張って鼻で息をしているのもわかる。
こんなことをされると離せなくなり、キスを繰り返してしまう。キスをされている暁斗の顔も嫌がっていないように見える。
「…んんっ、簾!もう…苦しい。なんだよ、お前そこ!当たってるぞ」
暁斗にグイッと押されて唇が引き離された。暁斗の身体は半分簾に寄りかかっている。言葉では嫌そうに言うが、暁斗の顔と態度はそんなことはなさそうだ。
当たっていると暁斗に指摘されたのは、簾の下半身だ。暁斗には、簾が勃起してる感触が伝わったのだろう。
まずいとは思ったが、暁斗の下半身を見ると同じように勃起しているのがわかった。
「おまえこそ、なんだよそれ…」
簾が暁斗に視線で下半身へ促す。ささっと足を閉じるも、真っ赤な顔になり暁斗は恥ずかしそうにしている。
「だってさ…」
「暁斗、こっち向いて座って。手はここ、俺の首を持つんだ。もっとくっついて…」
暁斗を簾の方を向き対面に座らせる。簾と向き合うようになり、身体を更に密着させた。お互いの下腹部に勃起したペニスが当たっている。抱きしめれば、服越しにゴリっと擦れ合うのがわかる。暁斗が勃起しているのが嬉しい。身体は拒否をしていないとわかる。
「れ、簾…な、なに?」
「男なんだから仕方ないだろ?ほら、俺に寄りかかれって。出してやるよ、俺のと一緒に」
「え、え、一緒に?なに?」
強引だと思うが、暁斗が首に手を回し抱きついている間に、お互いのズボンとパンツを下ろし、二人のペニスを簾は合わせて握った。
「やることは同じなんだから、一緒にやった方がすぐに終わるよ。俺が扱くから、お前は俺に捕まってろよ」
そう言いながら簾はまた暁斗にキスをした。暁斗はぎゅっと簾を抱きしめている。
テレビの音を大きくしておいてよかった。
グチュグチュという二人分の先走りの音と、二人の息遣いはテレビの音にかき消されている。簾と暁斗の耳にだけ、水気のある音とお互いの吐息が届いている。
「キスしてる時は目を閉じるんだよ」
目を開けないようにと簾は暁斗に促す。目を閉じていても、気持ちよさそうな顔をしている暁斗を簾は見ている。
「はぁ…ん…ん…」
「…はっ、くっ…」
キスをしていないと、お互い声が出て漏れている。暁斗の声を聞く度に、ぐんと簾のペニスが大きく波打ってしまう。
両手で二人のペニスを掴み扱いているが、腰が浮いて動いてしまう。先走りが足の付け根まで流れてきている。扱く手の動きも速くなる。
「れ、簾…もう、ダメかも…」
「…いきそうか?」
「う、うん、いきそう…」
暁斗に『いきそう』と言われ興奮してしまい、またキスをした。片手をペニスから離し、暁斗の腰を強く引き付ける。腰を押し付けながら動かした。微かに暁斗が上擦った声を上げ、簾に抱きついている。
暁斗が簾の肩に顎を乗せ、簾の身体を強く抱きしめている。吐息と漏れる声が簾の耳に直接響く。
「…いく、出ちゃう…」
「ああ、俺も…いきそう。出すぞ」
ぐっちゃと、強く上下に擦った途端、暁斗が小さい悲鳴を上げて射精した。少し遅れて簾も射精する。簾の精子は暁斗のペニスにかかった。溜まっていたのか射精が止まらず、何度か腰を押し付けペニスを扱きあげ、出し切った。
先走りの量も、精子も二人分なのでお互いの腹と足の付け根に溜まっている。
「ティッシュどこだ?」
「…あー、めっちゃ遠くにある」
はははと二人で笑い合った。出すもの出した後なので、現実に戻ってしまう。
「暁斗、ティッシュ取れる?」
「うーん…届かない」
「おい、そんなに動くなよ。垂れるだろ」
「無理言うなよ。じゃあ、どうするんだよ。おい、簾、笑うなよ。お腹から垂れるぞ…ぎゃっ、流れちゃう!」
あはははと笑い、ティッシュが取れず、後始末が中々先に進まない。キスをしたいと思うが、キスをする雰囲気ではない。それでも雰囲気は悪くない。
「…お前、身長だけじゃなく、こっちもデカいんだな」
暁斗が簾の股間を指さしている。二人で扱き合った後も関係が崩れなくホッとした。
「そうか?お前のは…まぁ、うん、そうだな」
「なんだよ!それ。俺は標準なんです!」
「あはは、何にも言ってないだろ?つうか、早く取れよティッシュ」
ちょっと待ってと言い、無理な体勢で取ろうとした暁斗がそのまま後ろにひっくり返り、精子がカーペットに垂れてしまい、二人で「あーっ」と大声を上げてしまった。
素早く二人は立ち上がり掃除をする。
ゴシゴシとカーペットに付いた精子をティッシュで擦りながら、また二人で声を上げて笑った。
「もーう、アイスワイン飲まない」
暁斗は十和田から貰ったアイスワインのせいにしている。確かに、それが一番都合がいいだろう。
「っつても貰ったらまた飲むだろ?」
努めて明るく簾は暁斗に言った。
「…多分な。飲むだろうなぁ」
半テンポ遅れて暁斗から返事があった。
関係は崩れていない。でも変わっていないわけでもない。今日のことは、無かったことにはならない。
「じゃあ、次は準備万端にしないとな」
「なんだよ、準備万端って」
カーペット掃除を終えた二人は、キッチンで手を洗う。スッキリして酔いが覚めた。
「準備は…ティッシュは手前に置くとかだよ。今日ので学んだろ?」
「それは!準備万端じゃなくて、用意周到って言うんだよ」
「どっちも同じだろ?今度アイスワイン売ってる店に行ってみようぜ。大誠さんにお返ししてやろう」
「あ!それいいよな。俺、大誠さんに貰ってばっかだからさ…」
「いや、それはいいんだよ。それより、俺らからアイスワインを渡して、ニヤニヤしてやりたいな、俺は。たまには仕返ししなくちゃ」
なんだよそれ?と、暁斗は笑いながら冷凍庫からアイスを取り出した。冷たいものが食べたいのだろう。熱くなった身体は、なかったことにはならない。
二人の関係も新しく更新していく。
いつか十和田のようになりたいと、改めて目標を決める。
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