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無自覚が自覚し始めたら… 第44話 | 穂積こうまの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
無自覚が自覚し始めたら…
第44話
作者:
穂積こうま
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第44話
加賀
(
かが
)
鈴之典
(
すずのすけ
)
が来店すると約束した日は、朝から千輝と暁斗はミスを連発させてしまい、とうとう簾に「もう少し落ち着いてください」とため息混じりに言われてしまった。呆れているようだ。 浮かれすぎてしまったのだろう。 二人で反省している。 営業終了となり、お迎えする準備をしていたら十和田が一番に到着した。今日は歩いて来たようだ。 「クラムチャウダー出すのか?俺にもある?食べたい…」 そう言うと思ったので、もちろん用意はしてある。そして、とにかく千輝は十和田を第一優先するようにと、暁斗と簾に何度も言われていた。 「ありますよ」とにっこり笑って言うと十和田は嬉しそうにしている。暁斗は、フッと横で笑っていた。恐らく、予定通りと思っているのだろう。 十和田のすぐ後、カフェに来たのは工藤だった。 「あれ?工藤さん!どうしました?あっ、大誠さんと待ち合わせですか?」 工藤が来ることは聞いていなかったが、十和田もいるので待ち合わせだろうと千輝は思った。工藤も十和田と同じく大柄だ、背丈は十和田までいかないが、体格はそれでもがっしりとしている。その工藤の後ろに少年のような人が隠れるように立っていた。 その少年がタタッと駆け寄ってきた。 「初めまして、
加賀
(
かが
)
鈴之典
(
すずのすけ
)
です。どの人が千輝?」 千輝、暁斗、簾を指差して聞いている。 「「「えっ?」」」 イメージと全く違う人物に三人で驚くが、鈴之典は、きょとんとしている。 背格好は千輝より小さく、暁斗と同じくらいで、近くで見ると大学生のくらいの年齢に見える。 さらっとした黒髪はキューティクルの輪が光っていた。顔も小さく、目はくりくりとし、頬はうっすらピンク色だ。 鈴之典は、ワクワクするような顔でこっちを見ている。小動物でいるような…と千輝は咄嗟に想像してしまった程の、可愛さだった。 だぼだぼっとした大きいサイズのピンクのトレーナーに、黒のスキニーパンツを履いている鈴之典をテーブルに案内した。 リュックからノートとペンを取り出している。どんな行動をしても、全てがかわいらしいというか、微笑ましく感じる。 「お腹空いてますか?クラムチャウダーを準備してますが、お出ししてもよろしいでしょうか」 千輝が屈んでテーブルに座る鈴之典に確認した。鈴之典のことを小動物とイメージしたからか、屈まなくてもいいのに、ついつい屈んで目線を合わせてしまう。 「はい、お願いします。君が千輝?」 首をこてんと傾けた鈴之典に聞かれた。 「あっ、はい。そうです。初めまして。ご挨拶が遅くなりました。よろしくお願いします」 「へぇ、十和田、お前の好きな人だろ?」 鈴之典が振り返り十和田に聞いている。 「そうだ」と遠くの席から十和田の声がする。十和田と工藤は同じテーブルに座っていた。 千輝がキッチンに入り準備をしていると、暁斗がすかさず入ってくる。簾には鈴之典に水を出すようにお願いしたようだ。 「千輝さん!ちょっと!」 小声で暁斗に呼ばれた。考えていることは二人同じであろう。顔を見合わせて頷き合った。お互い喋ってはいないが、眉間に皺は寄っていると思う。 「と、とりあえず、今は無事に終わらせよう。その後で話し合いね」 「う、うん。オッケーです」 千輝が作ったクラムチャウダーを暁斗が鈴之典の元へ運んでいった。 「千輝、こっちに来て?もういい?」 鈴之典に呼ばれたので、工藤と十和田の分のクラムチャウダーは簾にお願いをする。 鈴之典は「美味しい!」と言いながら食べてくれている。 鈴之典のテーブルには千輝と暁斗、十和田のテーブルには工藤と簾。店はそんなに大きくないので貸切になれば、みんなの声が聞こえ、全員で会話も出来る。 鈴之典の見た目は大学生くらいだが、十和田、工藤の少し年下だというので千輝より年上だとわかった。 小説家デビューは十和田よりも前だという。そのため、十和田に対しても態度は大きい。名前も呼び捨てである。 本人は若く見えるのがコンプレックスだと言っていたが、学生に見えるから便利な時もあると笑っていた。 そんな感じで自己紹介が終わり、ワクワクしている鈴之典が口を開いた。ノートを開き、メモを取るのだろうか、ペンを握っている。 「千輝は十和田のどこが好きになったんだ?あの男デリカシーないだろ」 十和田をチラッと見ながら鈴之典は言う。 どうやら鈴之典は見た目に反して、かなり口が悪いようだ。 だが、ビジュアルがかわいらしいので、口の悪さが全く気にならない。それに、世の人々を号泣させている恋愛小説を書いている人物とは、想像がつかない。 「えっと…そうですね。デリカシーは、まぁ置いといて。なんていうんでしょうかね、僕には無い大きさっていうか…大誠さんって人の価値観を否定しないんです。器が大きいのか大人なのか…真っ直ぐな人なのに余裕があって、人からどう思われるかより、自分がどう思うかを大事にしろっていつも背中を押してくれてます。やりたい事に集中しろって…カッコいいですよ。それは真似できないし、いつも惚れ惚れします」 惚気になるかなと思ったが、千輝の本心を鈴之典に伝えた。 「けっ、嘘つけ!駄々捏ねてるじゃないか。俺知ってるぞ?ホテルにカンヅメだった時、家に帰る帰る!ってぐずぐず言ってたぞ。全然、器は大きくないだろ」 更に口が悪く鈴之典は言っている。急に太田に連れて行かれたホテルでの時、鈴之典も一緒にいたんだっけと思い出して、千輝は笑った。 「あはは。あれは、わざとですよ。僕を不安にさせないようにしてるんです」 「えっ?どういうこと?」 「大誠さんが駄々捏ねたりしてる時は、僕がひとりで不安にならないように、わざと意識をそっちに向けるようにしてるんだと思います。大誠さんに構ってると、不安とか寂しさとか紛れて忙しく過ごせるから、意識してそうやってるんです。僕ことよくわかってるんですよ。寂しくさせないようにってしてるんです。あの人」 笑いながら十和田の方を指さして、聞こえるように言ってやった。十和田はバツが悪そうな顔をして、頬杖をついている。 「…へぇ、そう…なんだ。優しいのか?十和田って」 急に鈴之典がトーンダウンしてきた。さっきテーブルに出したノートには『質問』とメモ書きがしてあった。聞きたいことがたくさんあるようだ。 「そうですね、優しいですよ。男同士で付き合うと色々な事を言う人もいるじゃないですか。僕がそれを気にするから、上手くみんなを巻き込んで、男とか女とか、付き合うのに性別は関係ないって感じに周りの人に浸透させていくんですよ。僕には何も知らせないで、そんなこともやってるはずです。優しいんだか、なんだか…教えてくれてもいいのにねって思うんですけど、その辺は絶対、僕に教えないでやってますね」 あはは、と笑いながら十和田を見るとプイッとそっぽを向いていた。この癖も最近は多く見ているので、どんな気持ちかもわかっている。 「なあ、千輝。そういうのって言葉にして言うのか?言わないよな。なんで千輝はわかるんだ?十和田にもそれはわかってるのか?」 ノートにメモを取っている手を止めて鈴之典は聞いている。また、こてんと首を傾げているから、かわいくてたまらない。鈴之典のかわいさは、小動物の子猫かリスかってところだ。 「言葉にしなくてもわかります。もう、また優しいことしてるんだからって思ってます。いつも僕のことばかり優先してくれて、意地悪な事を言いそうな人は僕の所に来る前に排除してくれてるんです。そういうのは、一緒にいるとわかるんです」 ぽかんとした顔をして鈴之典は千輝のことを見ている。そんな顔もかわいらしい。大人の男性と勝手に鈴之典のことを想像していたが、全く違うビジュアルでも、これはこれでいいかもと千輝は思っている。 「じゃ、じゃあ!十和田は?十和田はどうなんだよ!」 急に十和田の方を向き、鈴之典が十和田に問い詰めるように聞いている。 「俺だって言わないし、聞かない。だけど、よくわかったろ?その千輝に手のひらの上で転がされてるんだよ俺は。俺には敵わない相手なんだよ」 インタビューの時と同じ返しをしているが、ブスッとして答えていた。 「ひ、ひぃ…」 暁斗が急に呻き始めた。今まで息を止めていたように話を聞き入っていた。 「な、何?暁斗くん?」 「いや、大人って凄いなって…」 暁斗の一声でみんなで笑い合った。結局は惚気てるんだと工藤が言っていて、話は一区切りとなった。 「ところで、工藤さんは加賀先生と知り合いなんですか?」 そう、なぜ工藤が一緒にいるのかが、わからない。そういえば、この前のパーティーには工藤は来ていたはずと、千輝は思い出し聞いた。 「千輝!先生って呼ぶな!加賀さんか、鈴さんでいい。鈴之典とも呼ぶな!俺はそう呼ばれるのが嫌いだ」 「おい、加賀!さっきから聞いてりゃ、俺の千輝を勝手に呼び捨てにするなよ」 まあまあ、と工藤が十和田と鈴之典の間に入り止めている。簾と暁斗はカフェアートの準備をしていた。人数分作っているのか二人で戯れあって楽しそうだ。 工藤は警察を退職して身辺警護会社で働いているという。今は、鈴之典の警護を24時間で対応しているらしい。 この前、パーティーで千輝と会った時は、他の警護の依頼で来ていたと言っている。 「最近コイツとはずっと一緒なんだ。だからもう疲れた。遊びに行きたいって言ってるのに、外に連れて行ってくれないんだよ」 工藤と一緒にいるのに疲れたと鈴之典は言っている。でも、久しぶりに外に出たのが今日であり、千輝に会えたから楽しいと言ってくれた。 鈴之典は、口は悪いけど嫌な感じはなく、好感が持てると千輝は感じている。 「それからさ…君!今度バイトしないか?女の子とデートに行ってくれたらバイト代払うよ」 鈴之典が簾を指さしてスカウトしている。本日何度も思っているが、鈴之典の言葉と見た目にギャップがあるから、失礼なことを言っても、みんな全く怒る気にならないのが不思議だ。役得だと思う。 「なんだよ、すげぇ怪しいバイトじゃん。ナイナイ、簾はそんなバイトやらないよ」 暁斗だけが鈴之典に言い返している。確かに簾もそれを聞き、ため息をついていた。人気作家が何でバイトなんて依頼するのか理由がわからない。 「暁斗には言ってないだろ?暁斗は…うーん、ダメ。バイトは出来ない。お前はかわいい系だからダメ」 「なんだよ、それ!」 「暁斗が出来るのは…うーんうーん…思い浮かばない。お前、何が出来んの?」 「俺はここで働いてるじゃん!色々出来るんだよ!」 鈴之典と暁斗のかけ合いに全員で笑った。言い合っているが、暁斗と鈴之典は、何となく息が合っているような気もしている。 暁斗が入れたカフェアートも鈴之典は喜び、ノートにメモをしていた。「こんなこと出来てすげえな」と鈴之典に言われた暁斗は嬉しそうである。 「おい、鈴。もう帰るぞ」唐突に工藤が声をかけると、「えっ?もう?」と名残惜しそうにしている。 リュックにノートとペンをしまい、のろのろと帰り支度をしていた。十和田とは違い、言うことはよく聞き素直な作家のようである。 「鈴さん、また来てください。今度は家でもいいですよ?待ってますから」 千輝が鈴之典に声をかけると、笑いながらありがとうと言ってくれた。笑顔がチャーミングな人だなと思う。 工藤が運転する車の後部座席に鈴之典は座り、帰って行った。最後に、千輝と暁斗は何故か鈴之典と連絡先を交換した。 「あー、疲れた。鈴之典って口悪いな」 暁斗が片付けをしながら声を溢す。ありがとうねと、千輝が声をかけている後ろで、十和田と簾がニヤニヤとしているのがわかった。 「何…?」 怪訝な顔で千輝が二人に尋ねる。暁斗も振り返り二人を見ている。 「いや…千輝も暁斗も加賀のこと、カッコいいイケメンだって思ってたみたいで、面白かったよなぁ、簾。大分イメージと違ったようで…」 「ま、そうですね。会った時、一瞬動作が止まってましたもん。二人の反応を見てて面白かったですよね」 昨日までは不貞腐れていたくせに、急に余裕ある態度になり、二人でゲラゲラと笑っている。 何となく憎たらしい。十和田だけではなく、簾も同じだ。簾だって、鈴之典を見て驚いていたくせに。 「だってさ、加賀鈴之典の小説を読んでると書いてる人はイケメンだって思うよ?すっごくかっこいいんだよ主人公が。それに女の子のことも、恋愛のノウハウも全部知ってるって感じだもん。ね、千輝さん」 「そうだよね。あんなにかわいらしい人だとは思わなかった。でもまぁ、ギャップがあっていいんじゃない?」 暁斗と千輝が落ち着いて、そう話していても、十和田と簾はまだニヤニヤとしている。何がそんなに面白いんだろうか。 「なんでそんなに簾もニヤニヤするんだよ…大誠さんはホッとしてるとしても」 口を尖らせて暁斗が文句を言っている。その気持ちは千輝もわかるので頷く。 「でもさ、小動物みたいにかわいらしい人ってわかったからさ、これから僕と暁斗くんで鈴さんを推していこう!」 「そうだよね、千輝さん。あっ…鈴之典から連絡きたよ!」 暁斗がスマホを確認して言っている。千輝もスマホを確認すると、同じように鈴之典ならメッセージが届いていた。 「あっ!本当だ。今日はありがとうって書いてある。うわーっ礼儀正しい人だね。本当にかわいらしい人だよね」 「暁斗、今度遊ぼうな…って書いてあるよ。もう、しょうがないな、鈴之典は」 千輝と暁斗は鈴之典に返信したりと、またキャッキャと話始めると、十和田と簾が急に冷めた目で二人を見始めていた。 気分の浮き沈みが激しい二人だなと、暁斗が呟き、千輝は笑っていた。
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