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第45話
鈴之典を迎え、賑やかだった場所から自宅へ二人で歩いて帰る。
今日はバイクではなく歩きなので、千輝の歩幅に合わせてゆっくりと歩く。
キンと冷える冬の空気も気持ちがいい。
坂道の入り口から手を繋ぐ。
もうすぐチロ先輩の家の前だ。
黄色い花が咲いているのが遠くからでもわかる。よかった、花が咲いたんだなと安心する。
「大誠さん?」
手を繋ぎながら十和田の顔を見上げると、
ん?と言いながら顔を覗き込まれた。
「パーティーの時ね。大誠さんが僕のこと聞かれてて…答えてくれた時、恥ずかしくて悶絶してたけど、本当はすっごく嬉しかったんだ」
「俺は今日、千輝の答えを聞いてて悶絶した」
あははと大きめの声で二人で笑ってしまい、ハッとして声をひそめた。
夜になるとこの辺は静かになるから、話し声だけでも響いてしまう。
「でも、悶絶してた顔してなかったですよ?プイッてしてたじゃないですか」
「あれが悶絶してる顔だろ、俺の」
「あはは、そうだね。実はそうだって知ってます」
「本当か?」
小声で喋っていたが、また笑い声を上げてしまったので、お互いの手で、お互いの口を塞いだ。
坂の途中で振り返るが、夜だし、今日は月が出ていないので海がよく見えない。よく目を凝らして見ていると、目の前が暗くなった。
「もう…」
プニっと唇に触れたのは、十和田に覆い被さるようにキスをされた唇だった。だから目の前が暗くなったんだとわかる。
照れ臭くて『もう』と言ってしまってから、少し後悔する。不意打ちはいつも嬉しいのに、恥ずかしがってばかりだ。
何回とキスをされているのに、毎回新しい気持ちでドキドキとするのは何でだろう。
ドキドキとする心臓の音が身体中に跳ね返る。
「俺は、この坂道が好きだ。この道を千輝と二人で手を繋いで上がったり、下ったりするのが楽しい。季節が変わったり、雨が降ったりするのを見ながらさ、毎日君とこの坂道を歩きたい。それに、ここで君を離さないと俺は誓ったんだ」
足元はいつもビーチサンダルの人と、夏になるとアイスを食べながら坂を上る。坂を上ると、寝っ転がって星を見上げる庭がある。玄関の横にはガレージがあり、大切なバイクがいつでも外に遊びに行けるように準備している。そんなことを考えながらいつもこの坂を上っていた。
それに、中々開けなかった十和田からのメッセージを、店からこの坂道にかけて、少しずつ読んだのを思い出す。
つらいことが書いてあると決心して開いたが、思っていた事とは全く違う、十和田の想いが全開に広げられていたのを見て、嬉しくなったり、胸がしめつけられたり、会いたくなったり、忙しい想いをしたのを覚えている。
今でもあのメッセージは大切にしていて、
たまに見返したりもしていた。
そう伝えると、照れくさそうにする十和田を見るのも好きだ。
『今日は月が大きい。君に見せたい。君も見ているかな』
坂の途中で届いたメッセージは、離れていても同じ月を見上げることが出来ると教えてくれて、泣きそうになった。
しゃがみ込んで前に進めなくなっていた千輝を、立ち上がらせてくれた。好きになった人に向かって走り出すことができた。
あの時、坂の上から走ってきた十和田に抱きしめられ、泣きながら、やっと息ができるようになったのを思い出す。
「大誠さん…僕はもう手を離さないよ?」
千輝は繋いだ手をぎゅっと握った。
歩く時はいつも十和田の左側にいる。
手を繋ぐと十和田の薬指にある指輪がごろっと当たるのがわかる。
「望むところだ」
手をグイッと引っ張られて、急ぎ足で残りの坂を上った。玄関に到着した時は、少し息を切らして、また笑い合った。
家に入り靴を脱いでいると、十和田に抱きかかえられた。突然後ろから抱き上げられたから、「うわっ」とびっくりした声が出る。
だけど、十和田は平然とした顔をしていた。最近ますます逞しい身体だなと感じている。どうやって鍛えているんだろう。
知らないうちにきっと何かやっているんだと思う。今度詳しく聞いてみたい。
知らないこと、知ってること。
教えてもらうこと、教えること。
毎日同じ時間を共有し、少しずつ確実に二人は近づいている。近づきすぎて、十和田の中に入り込み、混ざり合っちゃうかもなんて、浮かれたことも考えている。
「さあ、今日も許さないんだろ?」
「あはは。そう、許しませんよ。おへそにもキスさせて?」
家に帰ってきたから、大きな声で笑い合える。今日もそのままベッドまで直行だ。
ふわっと抱きしめられると、嬉しさから肌が泡立つ。耳の後ろから首筋にかけて、鳥肌のように嬉しさから肌が立つのがわかる。
「なぁ、千輝…今日は何から話しようか…」ってベッドで覆いかぶさり、笑いながら十和田に話しかけられた。
何の話からしようかな。
たくさんありすぎて、どこから話をするか忙しいな。
そうだなぁ、じゃあ…と千輝は言いながら十和田にチュッとキスをした。
end
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