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03※
保健室には八雲に呼ばれた養護教諭がいて、殴られた俺の顔をみて心配してくれた。
それでも、深くは聞かれることはない。カースト制度も学園公認のシステムだ、カーストのせいで何が起ころうが全ては黙認される。
それでも、今回ばかりは余計なことを聞かれずに済んで助かった。顔、それからいつの間にかに腕にできてた擦り傷に絆創膏を貼ってもらう。
ベッドで休んでいくかと聞かれたが、こんなセキュリティもガバガバのところで休む気にはなれなかった。俺は丁重にお断りし、手当を終えたあとすぐに保健室を後にする。
その間、俺の手当を見守っていた八雲も後ろからついてきた。
「休んでいったらよかったじゃないか」
「……一番ケ瀬が、」
「一番ケ瀬? ああ、彼のことを心配してるのか?」
気にならないわけないだろ、と八雲を見上げれば、やつはニヤニヤと嫌な笑みを浮かべた。
「だったら君も生徒会室に来るといい。今なら面白いところ見れるかもしれないよ」
口調そのものはいつもと変わらないものの、こちらをみて細められる八雲の目。そこには間違いなく性格の悪さが滲んでいた。
◆ ◆ ◆
八雲の言葉に惑わされたくはない。
全て自分の目で見たものを信じたい。
そう思った俺は八雲の誘いに乗った。また罠かもしれないが、それでも断ることはできなかったのだ。
八雲とともに生徒会室へと向かう。
「そう言えばあんたのこと、七搦が探してたぞ」
そう隣を歩いていた八雲に告げれば、八雲は「ああ」とさして興味なさそうに呟いた。
「会ったよ。だからあそこを通りかかったんだ」
「……どういう意味だ」
「さあ、どういう意味だろうね?」
あまり深く考えたくなかった。それでも、どうしても嫌な想像しか浮かばない。
思わず立ち止まりそうになる俺の腕を軽く引き、八雲は「どちらにせよ些細な問題だろう」と歩き出す。
「些細なって、ふざけるな……ッ! まさか、一番ケ瀬はハメられて……ッ!」
俺を襲わせて、わざと一番ケ瀬や八雲たちが通りかかるようにおびき寄せた。
もしそれが事実だとしたら冗談ではない。俺はあいつのダシに使われたのだ。それも、最悪な方法で。
そんな俺の唇に指を押し付けた八雲は微笑む。
「だから、静かにね」
「……ッ、あんたは……楽しそうだな」
「寧ろ僕からしてみたら、何を君がそんなに怯えているのかが理解できないくらいだよ」
この男に人の心を求めていたわけではないが、それでも耳を疑った。価値観からなにまで違う、わざわざ怒ることにすらも疲れて視線を外したとき、八雲はこちらに視線を向けるのだ。
「一番ケ瀬君が理由もなくわざわざこんな危険を侵すと思うのか?」
どういう意味だ、と尋ねるよりも先に、八雲は立ち止まる。
「さあ、ついたよ」と目の前の扉にそっと触れた八雲はそのまま扉をノックし、「入るよ」と声をかける。そして返事を待たずして扉を開いた。
生徒会室の奥、会長席に腰をかけた九重と、その向かい側に立つ一番ケ瀬がいた。……あの暴漢の姿はない。
それから、その手前のソファーには七搦もいる。面倒臭そうにソファーに腰をかけ、一番ケ瀬の背中を睨んでいた七搦だったが、生徒会室へと入ってきた俺たちを見るなり「お」と楽しげに笑うのだ。
「っ、一番ケ瀬……」
そう、咄嗟に一番ケ瀬の背中に声をかけた。
まさか俺がいるとは思わなかったらしい、こちらを振り返った一番ケ瀬は「十鳥」と俺の名前を呼ぶのだ。その表情にいつものような元気はない、疲弊と不満、怒りと困惑が入り混じったようなぐちゃぐちゃな感情が浮かんでいる。
一番ケ瀬に駆寄ろうとしたとき、八雲に首根っこを掴まれた。
「君の席はここだよ、十鳥君」
そして、そのまま八雲に引っ張られ、九重の元まで引きずられるのだった。
目の前までやってきた会長様の威圧感は相変わらずだ。座っているこの男を見下ろす形になってるはずなのに、見下されてるようなそんな圧に押し負けそうになる。
そして、俺を一瞥した九重はそのまま俺の横にいた八雲に視線を向ける。
「八雲、なに部外者を勝手に連れてきているんだ」
「部外者って言い方はないだろう。……彼も一応被害者に当たる」
「被害者だと? 何も問題はなかったはずだ、不必要な抵抗に及んだせいで騒ぎが大きくなった。……お陰で、こいつが馬鹿な真似をした」
『こいつ』と一番ケ瀬を一瞥する九重。その言葉と仕草にカッと頭に血が昇りそうになる。
俺のことを馬鹿にするのはまだいい。それでも、助けてくれた一番ケ瀬を馬鹿扱いされるのは堪えられなかった。
それでも、ここで大人しく引き下がってはわざわざついてきた意味はない。
「一番ケ瀬は、悪くありません。……っ、全部、俺が悪いです」
だから、一番ケ瀬を帰してください。
罰するなら俺に与えればいい。これ以上なにかを失うこともないのだから。そう続けようとしたときだった、九重の鋭い双眼がこちらを捉えるのだ。まるで人の温かみを感じさせない、冷たく鋭利な視線に突き刺され、その場から動けなくなってしまう。
「――……一番ケ瀬は悪くない、か」
一切の笑みも優しさもない。そう低く喉を慣らす九重。やつが笑っているのだと気付いた。
「一番ケ瀬、お前はどう思う」
「……会長」
「今回のことだけではない。今までの自分の行動を踏まえた上で答えろ」
何故そんなことを言わなければならないのか。
偉そうな態度にムカついたが、後ろ手に八雲に腕を引っ張られ、止められた。
そして、一番ケ瀬は九重の方を向いたまま答えるのだ。
「……俺は、九重会長の意見に納得できません」
そんな一番ケ瀬の言葉に、俺も八雲も、七搦までも一瞬凍りついた。ただ一人、一番ケ瀬の視線を真っ向から受け止めた九重だけが動じず、耳を傾けていた。
「一番ケ瀬君……」
「いい、続けろ。……一番ケ瀬」
「新しいカースト……四軍を作ることな賛成です。俺も、最初は九重会長の意見に賛同してました」
「ああ、そうだったな。……最初の四軍にこの男を指名したのもお前だ」
「ええ、そうです」
「だったら何がそんなに納得できない」
「何故、彼を庇って助けることが罪に問われるのかが分かりません」
あまりにも真っ直ぐな一番ケ瀬の言葉に、目の奥がじんわりと熱くなってくる。
対する九重は表情を変えないまま、「本当に分からないのか」と顎を指で擦るのだ。
「分かりません」
「庇って助けること自体は罪ではない。それこそ俺の関与する部分ではない」
「じゃあ……」
「生徒会副会長であるお前がそれをやること自体が悪手だと言ってる。……お前も分かっていた、だから自分の立場を利用してこいつを恋人にするなど言いふらしていたんだろう?」
四軍である俺が一軍である一番ケ瀬の恋人だという理由で優遇されれば、カースト制度、その本来の目的が機能しなくなってしまう。
九重が言いたいのはそのことだろう。そして、それは俺自身よく分かっていた。だからこそ、一番ケ瀬に甘えていた。
「それがお前の罪だと言ってる。……カースト制度は我が校の誇るべき伝統だ、それがたった一人のために破綻させるわけにはいかない。この言葉の意味がわかるか? 一番ケ瀬」
「…………」
「そんなに恋人ごっこがしたいというならさせてやる。――ただし、四軍同士でな」
それだけを吐き捨て、九重はゆっくりと立ち上がる。
一瞬、その言葉の意味を理解したくなかった。目を見開く一番ケ瀬。そして「まじか」と楽しそうに笑う七搦、それからおやおやと笑う八雲。
そんな三人の視線に構わず、俺は「待てよ」と咄嗟に九重の腕にしがみついていた。
広い背中、同じ高校生だと思えない上背。少しでも振払われれば吹き飛んでしまう自信はあった。それでも、止めないわけにはいかなかった。
「っ、やめろ、十鳥」と一番ケ瀬が慌てて俺を呼ぶが、構わず俺は九重の腕を掴む。
「……っ、撤回しろよ」
「……なんだ、お前いたのか」
「あいつは、恋人でもなんでもない。俺が、勝手に利用してやっただけだ。だから、もういらない。興味ないから――」
だから、撤回しろ。
そう続けるよりも先に、鬱陶しそうにこちらを振り返った九重に息が詰まりそうになる。
またいつの日かのように腹を殴られるか、それとも顔か。どちらにせよ来い、という気持ちで九重を睨みつければ、眉間に皺を寄せた九重はこちらをじっと見下ろすのだ。
「興味ないから、こいつを見逃してやってくれ」
そして、その唇はゆっくりと動く。地を這うような声が下腹部に響き、恐怖で緊張しそうになるのを必死に耐えた。
「……まさか、そういうつもりか?」
「ああ、そうだよ」
「馬鹿馬鹿しい。付き合ってられるか」
そして問答無用で振り払われる。呆気なく力が抜け、その場に座り込む俺。「大丈夫?」と支えてくる八雲を無視し、そのまま再び生徒会室を出ていこうとする九重の腰にしがみつこうとして思いっきり蹴られた。
「っ、う……ッ!」
「十鳥ッ! 会長、やめてください……っ!」
そう駆け寄ってくる一番ケ瀬を「触るな!」と振り払い、俺はそのまま俺たちを無視して生徒会室を出ていく九重を追いかけた。
――生徒会室前、廊下。
「……っ、おい、待てって! ッ、ぅ゛ぐ!」
今度はしがみつくよりも先に腹を蹴られ、蹲りそうになったところを胸ぐら掴まれる。そして、そのまま乱暴に壁に背中を叩きつけられた。
背骨から全身へと伝わる冷たく硬い衝撃に目の前は白ばみ、瞼裏で火花が散るように熱くなる。
「しつこいやつだな。話は終わったはずだが?」
「っ、まだ、撤回されてない……一番ケ瀬のこと……」
「なにが不満だ。四軍が増えればお前の負担も減る。生徒会の恥を晒すような真似はしたくなかったが、このままカースト制度を悪用されるよりかはマシだ」
堅物野郎、と八雲が九重を揶揄していた意味がよくわかった。
ただの冷徹クソ野郎というわけではない。恐ろしいほど融通が利かない目の前の男に俺は別の恐怖を覚える。まるで、話の通じない宇宙人でも相手にしたような、そんな恐怖にそれはよく似ていた。
「一番ケ瀬には……俺から言う」
「無駄だ。あいつの頑固さは俺がよく知っている。お前がなにを言ったところで、あいつだったら四軍落ちを受け入れるだろう」
九重の言葉もわかってしまうからこそ余計嫌なのだ。九重の言うとおり、このままでいるくらいならあいつは四軍落ちをよしとする。
けれど、俺はそれを望んでいない。
なら、どうすればこの最悪の状況を回避できるのか。どれだけ考えても思い浮かばない。
普段からなあなあに生きてきて、全て諦めて流されるがままここまできた。それが今になって仇となったのか。俺にはこの理不尽への逆らい方も、抵抗の仕方もわからない。
だから、
「っ、おね、がいします……」
「……」
「一番ケ瀬を……巻き込まないでください」
通路のど真ん中。
九重の腕から抜け落ちるように膝を折った俺は、そのまま廊下のタイルに額がくっつくほど九重に頭を下げる。血も涙もないこの男に効くのかわからない。それでも、俺にはこうして土下座をすることしかできなかったのだ。
たった数十秒、それでも俺にとっては遥かに長い時間のように感じた。
沈黙が辺りに流れる。このまま蹴り飛ばされようが、はたまた無視されようが仕方ないとわかっていた。そうなれば、足にまたしがみつくだけだ。
けれど、
「……顔を上げろ」
頭上から落ちてきた九重の声にはっとする。
釣られて顔をあげれば、そのまま九重に腕を掴まれるのだ。「立て」と九重に強い力で引っ張られ、ぎょっとする。
「っ、ぁ、……」
「ここでは目立つ。……ついてこい」
――どういうことなのか。もしかして、九重が俺の話を聞いてくれようとしているということなのか。
まだ九重の真意は分からない。糠喜びだけはするな、と自分に言い聞かせながらも俺は先を歩いていく九重の後を追いかけた。
九重に連れられてやってきたのは生徒指導室だった。
俺を生徒指導室に押し込めた九重はそのまま内鍵を閉める。そして、「そこに座れ」と指導室の中央に置かれた椅子を軽く蹴る。
まだ、なにをされるか分からない。見えてこない九重の真意を探りつつも、俺は九重の言葉に従った。そうすることしかできなかったのだ。
椅子に腰をかければ、対面の椅子にやつが腰をかけた。九重は「それで」と机に肘をついたままこちらに視線を向けてくる。
「一番ケ瀬に手を出すなと言ってたな」
「……はい」
「元はと言えばお前が四軍としての役目を放棄したから、一番ケ瀬のやつに助けを求めたからこうなったということは理解できているか」
「わ、……かってます」
何故こうもこの男はいちいち人に威圧感を与えてくるような話し方をするのだろうか。
押し潰されるような、心臓ごと握られるような息苦しさの中、言葉を絞りだす。九重はただじっとそんな俺を見ていた。
「それで、どうするつもりだ」
「……っ」
「一番ケ瀬のやつは説得でなんとかできるほど物分りのいい男じゃないぞ」
言葉は口だけでなんとかなる段ではない、と暗に言われているようだった。
考える。必死に脳を回転させ、どうすればこの最悪の状況を乗り切れるかを考えた。けれど、痛みと動揺で低下した思考力ではなにも浮かばない。
それは、と口籠ったままなにも言えなくなる俺に痺れを切らしたようだ。九重は小さく息を吐く。
「立て」
突然の九重の言葉に、え、と凍りつく。思わず顔を上げれば、こちらを見ていた九重と目が合った。
視線がぶつかれば、「こっちへ来い」と九重は顎でしゃくるのだ。
「……っ、は、い」
一番ケ瀬のこともある、断ることなどできなかった。今はこの男の機嫌を損ねないことが最優先事項だろう。恐る恐る近づけば、そのまま胸ぐらごとネクタイを掴まれた。
「っ、……ッ!」
「……誠意を見せろ、四軍」
「せ、いいって……」
「お前のその口はなんのために付いてる?」
まさか、と頭の奥がぢり、と熱くなる。
「しゃぶれ」
なにを、などと聞かずとも理解してしまった。
屈辱のあまり、顔が焼けるように熱くなった。
なんで俺が、と喉元まで出かけた言葉を飲み込んだ。
「……っ、はい」
これは恐らく、最後のチャンスだろう。
ここで上手く立ち回れば、一番ケ瀬のことを許してもらう。その結果俺の立場がどうなろうが、知ったことではない。なんなら今より悪くなることは早々ないだろうと思えるほど、既に今更な話ではあったからだ。
九重の足元に座り込み、そのまま膝を掴んだままやつの足の間に割って入る。
少なからず俺はこの男にこういう趣味があるとは思わなかった。そんなことを言えば八雲もそうだが、九重には何故か潔癖な印象があったから、余計。
勃起すらしていない性器を勃起させるところから始まる地獄のような時間だった。
試しているのだろう、この男は。1ミリも俺に性的興奮を覚えることもないくせに、こうして無茶振りをして試している。俺がどこまでできるのかを見定めてるのだ。
「……っ、」
スラックスの上から性器に触れるが反応しない。こういうときどうしたらいいのかなど俺には分からない。
ベルトを緩める九重。現れた下着に息を飲み、俺は半ばやけくそになりながら下腹部に手を伸ばす。
取り出した性器は萎えた状態空でも分かるほどの大きさで、それだけで酷く自分が惨めになる。唾液を絡めるようにとろりと性器に垂らし、そのまま恐る恐る手を伸ばす。
そしてそのままぬちぬちと手を動かせば、自分でその感触に声が漏れそうになった。対する九重はと言うと眉を動かすことすらしない。
「……っ、ぅ……」
「随分と不慣れのようだが、一番ケ瀬とはしなかったのか」
突然問いかけられ、思わず手が止まりそうになる。
一度もしなかったわけではない。けれど、あいつは俺が嫌だといえば無理強いするようなことはしてこなかった。――他のやつらと違って。
「……あまり、してません」
「何故だ」
「何故って……ぉ、俺が……嫌だって言ってたから」
「一番ケ瀬のことが好きなんだろう、あいつ以外に抱かれたくないわけじゃないのか?」
それは純粋な疑問のようだった。
何故そんな恋愛話をこんな糞のような状況でしなければならないのかと思ったが、会長様の問を無視することもできなかった。
「……あいつに抱かれることも、嫌だったので」
そう口にしたとき、自分でしまったと思った。
これから四軍として全うすると言ってしまった手前、性行為が耐えられないと初っ端からぶちまけていでは台無しだ。
慌てて撤回しようとしたが、九重は変わらない。それどころか、何かを考えているようだ。
先程から必死に撫でていたそこが僅かに芯を持ち始めるのを感じ、少し胸の奥がざわついた。
「何故嫌だと思うんだ」
「そ、れは」
「まずは、その性根を叩き直す必要がありそうだな」
びく、と体が震える。手の中でどんどんと固くなる竿に息を飲んだ。
「口を使え」と九重に後頭部を掴まれ、そのまま腰に顔を押し付けるように抱き寄せられるのだ。頬の上を滑る性器にぎょっとするのも束の間、そのまま九重の性器が唇に触れる。「舐めろ」と言われるがまま舌を出し、ぎこちなく竿から亀頭まで舌を這わせた。
「……っ、ふ、ぅ……」
ぴちゃぴちゃと口の中で音が響く度に恥ずかしさと情けなさで頭がいっぱいになりそうだった。
微塵も気持ち良さそうな顔をしない男の股座に顔を突っ込み、頭を擡げたそこに必死に舌を這わせる。
それでも一応は反応しているようだが、少なからず俺の技巧は関係ないような気がしてならない。
それにしても、こんなところで八雲にフェラさせられたときの経験が活かせることになるとは思いもしなかった。
「っ、は、んむ」
「……」
「……っ、ん、ぅ……ッ」
どくどくと脈打つ血管。舌の上でそれが反応するのを感じながら、俺は顔の上に乗る性器に舌を這わせる。
酷く長い時間のように思えた。会話も途切れ、指導室に響くのは嫌らしい水音だ。
腰を突き出し、犬のようにやつの下半身にしゃぶりつく自分の姿を客観視することなどできなかった。
そんな地獄のような時間をかけながらも、九重のものは確かに大きくなっていく。舌伝えに伝わってくる脈拍の間隔が短いのがわかり、もうそろそろ射精が近いかもしれないと思った矢先、九重は俺の頭を掴んで俺の口から性器を抜いたのだ。
「っ、ん、え」
どうしてやめるのだ、と驚いていたときだ。こちらを見下ろしていた九重は「立て」と低く口にする。
困惑しながらも言われるがまま立ち上がったとき、九重の手が俺の腰に触れる。
「そのまま自分で脱げ、下着もだ」
「……っ、それって」
「返事は」
一番ケ瀬がどうなってもいいのか、と暗に言われているようだった。腰のラインを撫でるようにそのまま臀部を掴まれれば、スラックス越しに尻に食い込む指に息が止まりそうになる。
俺にはもう、従う以外の選択肢は残されていなかった。
九重に命じられるがまま、やつの目の前で下半身に身に着けていたものを脱いだ。足元に落ちるスラックス。下着までもを完全に脱ぐのは心許なくて、俺は身につけたまま僅かにずらし、そのまま九重に背中を向けるのだ。
「ぬ、ぎました」
そう九重に見えるように制服のシャツの裾を軽く持ち上げたとき、九重の硬い指先が下半身に触れる。
そのまま柔らかく尻肉を掴まれ、背筋がびくりと震えた。
「今朝の男には犯されたのか」
「……っ、」
「ここに挿れられたかどうかを聞いている」
ここ、と肛門を指で押し広げられ、顔面に熱が集まった。
「いえ」と震える声で応えれば、「そうか」と九重はさして興味なさそうにそのまま人差し指をねじ込んでくるのだ。
「ぁ……っ?!」
「なに腰を引いてる。そこに手をついて、もっと腰を付き出すんだ」
「っ、ん、ぅ……ッ、は、い……」
顔が焼けるように熱くなる。それでも奥歯をぐっと噛み締め、こみ上げてくる羞恥諸々を堪えながら俺は腰を突き出した。
二本目の九重の指が入ってきて、問答無用で中を柔らかく揉みほぐしてくる指先に背筋が震えた。
腹の中で二本の指が擦れる度に声が漏れそうになるのを、寸でのところで唇を噛んで堪える。
「っふ、……ッ、ぅ゛……ッ」
「これからここは、いつでも男のものを咥えられるように準備しておけ。道具なら後で用意させておく」
「っ、な……ッ、ん……ッ」
「当たり前だろ? お前は四軍だ。……全校生徒の掃き溜めになるための存在だ。これくらいのこと、マナーとして心得ておけ」
いいな、と前立腺を押し上げられた瞬間、腰がぶるりと震える。逃げることもできなかった。九重の腕に腰を捉えられたまま、えぐるように中を乱暴に掻き回される。
それなのに的確に弱いところを責め立ててくる九重に、痛みや苦痛以上の快感に脳が支配されそうになるのだ。
「返事が聞こえないようだが?」
「っ、は、……ッ、は、い……ぅ゛……ッ! あ、ゃ……ッ!」
「……まあいい、お前には口先だけではないことをこれから直々に確かめてやる」
どういう意味だ。
熱で浮かされたぼんやりとした頭の中、イきそうになった直前に引き抜かれる指に朦朧としたまま振り返ろうとしたときだ。ぱっくりと開いた口に、指の代わりにそれよりももっと熱く、太いものを押し当てられる。
「……ッ、ぁ、あ」
嘘だろ、と驚く暇もなかった。俺が腰を引くよりも先に、九重は俺の腰を掴み、そのまま奥深くまで性器をねじ込んできたのだ。
肛門から脳天まで穿かれるような衝撃が走る。
「ぉ゛ッ、ぐ……――ッ!」
想像していたよりも何倍もあるその質量に、脳細胞が焼き切れそうだった。限界を越え、括約筋を引き伸ばして中へと挿入される亀頭に粘膜を摩擦される度に開いた喉から呻き声が漏れた。
腹の中が熱い、どうにかなりそうだった。
「……っ、ふ……狭いな」
「っ、ん゛、う゛……ッ!!」
指導室のテーブルにしがみつき、背後から覆いかぶさってくる男の性器を強制的に受け入れさせられる。
拒めるものなら拒みたい。けれどそれは許されない。必死に声を殺し、負担がかからないように鼻から息を抜こうとしするが、エラ張った亀頭で前立腺を引っかかれるだけで下腹部が痙攣する。
逃げようとする俺の腰を掻き抱いたまま、九重は更に一気に腰を打ち付けてきたのだ。
「……っ、待ッ、ぅ゛……ひィ……ッ!」
「……っ、これくらいで弱音を吐いてどうする、この先何本もここに咥えさせられることになるってのに」
「っ、ひ、ぐ」
「……っ、逃げるな」
十鳥、と耳元で名前を呼ばれ、背中に感じる九重の熱に火傷しそうになっていた。
ぱんぱんに詰まった腹の中、無理矢理こじ開けるように腰を動かされればそれだけで意識は飛びそうになる。
「っ、ぁ゛……ッ?! ぁ、か、いちょ……ッ、ぉ゛……ッ!」
「受け入れろ……っ、十鳥、これくらいでいちいち泣くな。この先どうする?」
「っ、ふ、ぅ゛……ッ、ぐ、ひ……ッ!」
無茶いうな、クソモラハラ男。
言ってやりたいのに、喉先まで出てるのに、堪えるしか俺には道はないのだ。
がっちりと腰を掴まれ、そのまま内壁全体を性器で摩擦するように中の粘膜を擦り上げられる。削り取るようなピストンに声を抑えるのが精一杯だった。乱暴で性急な抽挿に耐え切れず、ガクガクと痙攣する下半身。それを更に抱き止められたまま、俺は九重に犯された。
「っ、は、ぅ゛……ッ! ぐ、……ッ!!」
「は、……っ、そうだ、受け入れろ」
「う、く……ッ、ぅ゛……ッ」
「お前の肛門は男に犯されるためのものだと俺が叩き込んでやる」
ふざけるな、と滲む視界の中。笑う九重に腰を撫でられ、ひくりと下半身が震えた。みっちりと性器を飲み込んだ腹を圧迫されたまま、少し腰を突き動かされただけで前立腺が刺激され、拍子に頭の中でどろりとした白い光が弾けた。
そして呑まれる。
「っ、ぅ、ぐ……ッ、ひ……ッ!」
こんなの、気持ちいいわけがない。クソみたいな行為だ。
頭では分かっているはずなのに、亀頭と裏筋で乱暴に前立腺を引っ掛けられ、ねっとりと何度も腰を打ち付け、ただでさえ犯され続けて過敏になっていた体は与え続けられる刺激に打ち勝つほどの力も根気も残されていなかった。
びくん、とテーブルの上で跳ね上がった体はそのまま床に向かって射精する。どぷ、と音を立てて水溜りを作る下半身。びくびくと痙攣の収まらない下腹部を撫で、九重は更に腰を打ち付けるのだ。
「ッ、ひ」
「嫌だ嫌だと言っていたが、やつの言うとおり適正はあるみたいだな……ッ」
「は、……ッ、な、ぅ゛!」
違う、そんなものはない。そう否定したかったのに、背後から伸びてきた手に胸を揉まれ、乳首をぎゅっと摘みあげられればその言葉は途切れてしまうのだ。
奥を突き上げられながら胸の先っぽをいじられれば、神経がバグを起こしたみたいに二つの性感帯の感覚神経が繋がっているようだ。胸をイジられる度に前立腺に甘い刺激が広がり、次第に呼吸が浅くなる。
「っ、や、……っふ、ぅ゛」
胸はやめてくれ、と机にしがみついて隠そうとしたところを、更に上体を抱き寄せられるのだ。胸を逸らすような体勢のまま、背後から犯してくる九重に顔を覗き込まれる。
いつもと変わらない、どこか見下すような目の男は俺を見据えたまま、そして唇をれろりと舐めてくるのだ。
「っ、ん、う」
「……っ、ふ……」
「ん、んん……ッ、ぅ……ッ」
――なんで、この男とキスしてんだ。俺。
いつだって全校生徒の前で涼しい顔しているこの男に顎を捉えられ、舌で唇をこじ開けらる。繋がりっぱなしの下半身でやつの性器を根本まで咥えさせられたまま、弄ぶように片手で乳首を転がされるのだ。休む暇などなかった。全身をこの男の玩具みたいに捏ね繰り回され、感じたくもないのに何度も迎えさせられる絶頂にただただ疲弊感が重なっていく。
酸素が薄くなり、ぜえぜえと喘ぐ俺の唇を塞いだまま九重は肉厚な舌を絡めてくるのだ。当たり前のように舌伝いに流し込まれる唾液を拒むこともできぬまま喉奥で受け止める。
何故、なんで、俺はこんなことをしてたのか。そうだ、一番ケ瀬のために。
「っ、はー……っ、ぁ゛、……ッ」
「しっかり反応はするんだな」
「っ、ち、が」
「違わないだろ」と、揉みしだかれていた乳首の乳頭を柔らかく潰された瞬間、自分のものとは思えない声が喉の奥から漏れた。瞬間、ぎゅっと締まる下半身。九重は興奮したように唇を舐め、そして再び荒々しい抽挿を再開させるのだ。
「……っ、まっ、ぁ゛ッ、まっで、くだ、さ……ッ、ぁ゛……ぐ、うう゛……ッ!!」
「痛いのも、苦しいのも慣れろ……っ、それが四軍の役目だ」
「ぃ、ッ、う゛ッ、ぐう゛……ッ!」
「……その方が、お前自身も楽になるぞ」
無茶言うな、という俺のツッコミは掻き消された。大きく開かされた下半身、ぴんと突っ張った腿を抱えられたまま、開いた股の奥へと腰を更に押し付ける。ぐり、と奥まで入ってきた亀頭は閉じ切った結腸の入口に吸い付き、そこを執拗に突かれる度に「ぉ゛、ぐ」と喉から汚い声が溢れてしまう。
壊されて、叩きのめされて、考えるだけ無駄だと体に、細胞レベルでこの男に塗り替えられる。強制的に呼び起こされる快感になけなしの理性が呑まれそうになるのを必死に拳を握りしめ、耐えた。ぢゅぷ、ぐぢゅ、と先走りと血液で濡れた中を何度も掻き回される内に意識は朦朧としていた。
「ん、う゛……ッ」
ああくそ、キスされるとふわふわする。
九重に何度も太い舌で歯列や上顎、喉の奥まで執拗にねっとりと絡みつくようにキスをされる。好きでもない男からのキスなんて地獄だと思っていたはずなのに、全神経がイカれ始めていたところにその執拗なキスはよく効いた。
「……っ、ふー……ッ、ぅ゛……ッ」
無意識の内に俺は九重の舌を受け入れていた。頭の中がふわふわして、何も考えられない。それでもキスされると痛みや苦痛が緩和されていくのだ。
一番ケ瀬のため、一番ケ瀬のためなのだ。だから、これもそのために必要で――。
「……ッ!!」
渇いた音を立て、一気に奥の突き当りを亀頭でぶち破られる。声をあげることもできなかった。九重に全身をホールドされたまま、ぴんと硬直した体をそのまま好き勝手犯されるのだ。
窄まった窪みに亀頭を引っ掛け、その奥を亀頭で押し上げられる度に視界が白く染まり、恥ずかしい声が漏れそうになるのを自分で口を塞いで堪えた。
「十鳥、ようやく自覚が出てきたか? ……っ、お前の、便器としての自覚がな……ッ!」
「っ、ひ、ぅ゛……ッ! ん、んん゛……っ!」
「そうやってお前は媚びればいいんだよ、……っ、ああ、しっぽ振って、そうすりゃ可愛がってやる」
「っ、ぁ゛……ッ?!」
耳元で囁かれるそれは最早呪詛に等しい。
九重の逞しい腕にがっちりと下半身を抱かれたまま奥を舐られたときだ、どくんと大きな鼓動が体内に響く。そして、
「っ、う゛……く、うぅ……ッ!!」
腹の奥、その更に最奥。ドクドクと注がれる精液の熱に粘膜が焼け爛れそうになる。
深く俺の唇を塞いだまま、九重はぴったりと俺の腹に栓をしたまま息を吐くのだ。
そしてやつは射精を終える前に、再び精液でぐずぐずになった中を犯し始める。
「っ、う、な、んで……ッ」
「……っ、誰が、一回で終わるなんて言ったか?」
「ぁ、あ゛ぁ……ッ!」
揺さぶられる度に腹の中で精液が掻き混ぜられ、気持ち悪かった。吐き気と熱と快感でおかしくなりそうな頭の中、萎えるどころか先程よりも更に固くなってる九重の性器を何度も突き立てられる。その度に中に溜まっていた精液が漏れで、腰を打ち付ければ汚れる下腹部に気にすることなく九重は俺を汚した。
「っ、は、ぁ゛……ッ!」
「……っ、十鳥、出されたときは『ありがとうございます』だ」
「ぁ、ありがとぉ、ご、ざいま……ッ、す、ッ、ぅ゛……ッ!」
「……っ、ああ、そうだ。よくできた」
「ひっ、ぃ゛……ッ!!」
精液を潤滑油代わりに、先程よりも滑りの良くなった体内を何度も擦り上げる性器に耐え切れず、何度目かの絶頂を迎える。
意識が飛びそうになるたびに前立腺を潰され、快感で強制的に叩き起こされる。そしてぴんと伸びた爪先。伸びた片脚を抱えたまま体位を変えた九重はそのまま俺の唇を塞ぐのだ。
「っ、ん゛……ッ、ふ、……ッ」
粘膜同士が溶け合いそうな程の熱に目が眩む。ぢゅぷ、と音を立て、九重は僅かに唇を離した。
「好きでもない相手だろうが、恋人と思え。……自分から舌を絡めろ」
「こうやって」と舌を出した九重にそのまま舌を引きずり出される。真正面から覗き込まれるような鋭い視線から目を逸らすこともできなかった。
「ふー……ッ、ん、ぅ……ッ!」
食われる。舌ごと食いちぎられるのではないか、そんな恐怖すらも麻痺していく。
奥を穿かれながら、言われるがままおずおずと舌を自ら絡める。そうすれば更に九重は俺の体を抱き締め、腰を動かした。
「っ、ふ、んむ……ッ、う゛……ッ」
「……っ、十鳥」
「ぃ、ぐ、イ゛……ッ、く、ぅ゛……ッ」」
「ああ、構わない。……さっさとイケ」
「ッ、う゛む゛ぅ……っ!!」
後頭部を撫でるように更に舌を絡め取られ、そのまま興奮したように更に性急な動きで奥を突かれた。
堪えたい声も我慢することもできないまま、九重に好き放題されることを享受する。奥を潰されると同時に、限界まで腫れ上がっていた性器から残っていた精液を絞り出される。びゅく、と全体を震わせ、テーブルへと飛び散る精液に目を向ける余裕もなかった。
「っ、ん、う゛……ッ!!」
九重にがっちりと抱き締められたまま、そのまま腹の中に二発目の精液を注がれる。ドクドクと脈打つ鼓動も混ざり合い、どちらのものかも分からない。
粘膜と皮膚の境目があやふやになったまま、萎えることなく再び動き出す九重に俺はもうなにも考えることなどできなかった。
ひたすら受け入れることしかできない。理性も、常識も、あるだけ自分を苦しめることになるのだと叩き込まれる。
神経と肉体をすり潰しては溶かしていく、そんな地獄のような時間だけが過ぎていった。
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