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04※

 指導室で九重に散々犯されたあと、俺の意識は途中で途切れる。なにをされたのか記憶も混濁状態で、あまりの疲労と肉体的負荷に耐えきれずにずっと体の火照りは取れることはなかった。  次に目を覚ました時、そこは見慣れない部屋の中だった。 「っ、ふ、……ぅ゛……っ?!」  ここはどこだ、と声をあげようとした矢先。声が出ないことに気付く。それどころか体を動かすことすらもできない。  そして、腹の奥。なにかが入ってるような感覚だけはしっかりとあった。モーター音とともに前立腺を上下運動で押し上げるそれに驚き、飛び上がりそうになるも強制的に開脚させられるような形で両手足拘束された体ではろくに動くこともできない。そして、そこが会長室の机だと気づき更に絶望するのだ。 「っ、む、う゛……ッ」  なんだ、なんで、なんでこんなことになってるんだ。  起き抜けの頭の中、羞恥と混乱でパニックを起こしそうになる俺。そんな俺の元、遠くから足音が近付いてくる。 「……なーんだ、やっと起きたのか」  聞こえてきた声に、全身が凍り付いた。視界の端、会長机の上に乗り上げてきた七搦は、まな板の上の鯉よろしく跳ねることしかできない俺の肩を掴み「よ、十鳥ちゃん」と笑った。 「む゛、う゛……っ」 「それにしても、会長ってば本当えっぐい趣味してんよな。……これ、ずっと挿れっぱなしなんだってな」 『これ』と腹の上、異物で膨らんだそこを掌で押さえつけられた瞬間、脳の奥に電流が走る。のたうち回る俺と痙攣する下半身を見て、七搦は喉を鳴らして笑った。 「おっと、わりーわりー。びっくりさせちゃったか?」 「ふ、う゛……ッ」 「ま、お前はこれから暫く俺らで好きにしていいって会長に言われたからなあ。誰も怒らねえだろ」 「な、一番ケ瀬」そう、七搦の視線が俺の背後に向けられるのを見て凍りつく。肩越し、この体では振り返ることもままならない。それ以上に振り返って確認することの方が恐ろしかった。  七搦は青ざめる俺を見て笑い、そしてそのまま剥き出しになったままの乳首を摘むのだ。 「っ、ん、う゛……ッ」 「馬鹿だよなあ、お前も。大人しくしときゃ、こんな扱いされずに済んだのによ。……今まで通り大人しく犯されときゃな」 「っふ、ぅ……ッ」 「ま、俺としてはどうでもいいけど、一番ケ瀬の可愛い可愛い十鳥ちゃんを好き勝手できんのは、気持ちいいよなあ……っ、ん」 「う゛、んん゛ぅッ!」  左胸に顔を寄せた七搦に胸をしゃぶられ、背筋が震えた。やめろ、と机の上這いつくばって逃げようとするが、それも呆気なく押し倒され、そのまま胸に舌を這わされるのだ。  やつの髪が胸を掠める度に背筋が凍る。そして、後ろに一番ケ瀬が本当にいるとしたら。考えただけで生きた心地がしない。 「っ、ふー……ッ、う゛……ッ!」 「は、……っ、本当、ついこの間まで芋くせえ処女だったくせに、なんだよこの体」 「っふ、ぅ゛」 「……っ、エロすぎだろ」  しゃぶられ、吸われ、唾液でぬらりと濡れた乳首にふっと息を吹きかけられ、それだけで体が大きく仰け反ってしまう。  耳を塞ぎたくなるような七搦の言葉にどうにかなりそうだった。見るな、と体を隠したいのに、更に肩を掴まれ、乳首を甘く噛まれるのだ。 「っ、ん、ぅ……ッ」  七搦の咥内、窄めた舌に乳頭を穿られ、甘く吸い出される。それだけで腰が震え、既に臍にくっつきそうなほど勃起していたそこは熱く脈を打つのだ。もぞ、と揺れる下半身を見て、七搦は笑った。 「なんだ、こっちも触ってほしいのか?」 「っ、む、う゛……ッ」 「仕方ねえな……っ、ほらよ」 「ふ、う゛」  大きく広げられた股の間、肛門に深々と挿入されていたそれを引き抜く七搦。瞬間、勢いよく 内壁の粘膜を引っ張られ、耐えられずに全身が跳ね上がった。頭の中が真っ白になり、呼吸を繰り返す俺を見て「まさか今のでイッたのか?」と七搦は鼻で笑った。 「……っ、本当、お前さあ……っ、はは、まじか」 「っ、ん゛ッ、う゛……ッ」 「あーッ、くそ、イライラしてきた。一番ケ瀬、お前、こんなの独り占めしようとしてたってまじか、クソ生意気すぎんだろ……ッ!」 「っ、ぅ゛、むぐッ!」  捲れ上がったまま口を開き、自力では口を閉じることのできなくなってしまったそこに、七搦は舌打ちしながらベルトを緩めるのだ。本当に一番ケ瀬がいるのか、だとしたらどんな顔で俺を見てるのか、考えたくもなかった。逃げようとしたところを七搦に腰を掴まれ、引き寄せられる。  そして、柔らかくなったそこにべち、と押し付けられる性器に頭の奥が熱くなった。 「っ、は、ようやくだな、十鳥ちゃん」 「む、う゛……ッ」 「ちゃんと目ぇ開けろよ、今からお前に挿れてやるんだから……っ、なあ」 「ッ、う゛……ッ! ぐ、ぅ……ッ!!」  ず、と体内に入ってくる性器に堪らず背筋が震える。以前あれほど痛くて苦しかったのに、既にこじ開けられ、慣らされていたそこはスムーズに七搦のものを飲み込んでいくのだ。  ――なんだ、これは。  まるで自分の体ではないみたいに、快感だけがより鋭利になって神経を突き刺してくる。 「っ、ふ、ぅ゛……ッ!」 「……っ、あっつ、とろとろじゃねえの、十鳥ちゃん……ッ! はは、こんな玩具よかマシだろ?」 「ふ……ッ、んう゛、うう……ッ!」  気持ちよくない。こんなの、気持ちよくない。  繰り返し、自己暗示を繰り返す。その度に膨張した七搦の性器で腫れ上がった中を摩擦され、出したくもない声が喉の奥から溢れてしまうのだ。 「っ、ふ、ぅ、う゛、……っ!」 「……っ、へえ、オナホにしちゃまあまあだな、悪くねえ」 「う゛、む゛……っ!」  悪戯に胸を揉まれながら、独善的な動きで性器を嵌められる。奥を突き上げられる度に視界が弾け、開いた毛穴から汗が滲んだ。  熱くて、なにも考えられない。考えたくもない。  亀頭が前立腺を掠める度に腰が震え、下半身の筋肉が収縮した。それが堪らないらしい、七搦は執拗に俺の弱いところを犯し、潰し、えぐり――やめろと声をあげることもできないまま俺は一方的に七搦に犯されるのだ。  生徒会室に濡れた肉が潰れるような音が響く。  そんな中、扉が開くような音がして背筋が凍り付いた。誰かきた、と緊張する俺とは対象的に七搦は気にすることなく抽挿を続けた。そして、首だけ扉の方へと向けるのだ。 「……ん、ああ、遅かったな……っ、先にもう借りてんぞ」 「そんなことだろうとは思ったよ。全く、ちゃんと会長から言われたわけじゃないのに相変わらずの手の早さだね」 「別に構わない。元より、そのために“これ”は連れてきたんだ」  聞こえてきたのは八雲と九重の声だった。 「けど、人の机を汚すなよ」 「言っとくけど、最初から汚れてましたよ……っ、て、ん……っ、は、出そ……っ」  どくん、と脈打つ性器に血の気が引く。それから間もなく体内で性器から熱が迸り、腹の中を満たすのだ。七搦はそのままずるりと性器を引き抜いた。 「……っ、は、フェラさせたい。会長、これ外していい?」 「やめとけ、まだ食いちぎられるぞ」 「まじ? まじかあ、クソ、もう一回……」 「七搦は元気だね。――一番ケ瀬君、君は混ざらないのか?」 「……いえ、結構です」  朦朧としていた意識の中、聞こえてきた声に背筋が震えた。  生気のないその声は、間違いなく一番ケ瀬のものだった。こんなところを見られていたなんて、と現実に引き戻されるのも束の間、七搦の指が肛門にねじ込まれ、思考を塗り替えられる。 「っ、ふ、う……ッ!」 「はは、なんだよ。人の後は嫌だってか? 贅沢なやつだな」 「まあ僕でも君の後は嫌だとは思うけどね、七搦」 「ああ? んだと、お前に言われたかねーっての……っ、お、前立腺すげー見つけやすいな」 「っ、ん、う……っ!」 「十鳥ちゃん、まだいけそうだな? は、さっさと立派な公衆便器にならねえとな、ま、俺が協力してやるから安心しろ」 「っ、う、むう……ッ!」  中に溜まった精液を掻き出すように中を掻き混ぜられ、前立腺を指でこりこりと押しつぶされる。それだけで痛いほど勃起した性器からはとめどなく白濁混じりの体液が溢れ出し、下半身を汚していった。  立派な四軍になるために、一時的に生徒会専用の肉便器になれ。  そう生徒会長である九重直々のお達しが俺に与えられた。  それが唯一、一番ケ瀬を許してもらうための方法であり、俺にはもうそれに縋りつくことしかできない。  だから、俺は受け入れた。受け入れざるを得なかった。基本服も着せてもらえないまま生徒会室に放置され、いない間も肛門が閉じないようにとプラグやバイブなどなにかしらの玩具を挿入される。  今まで守られていた報いを一身に受けさせられるようなほどの時間だった。一層死んだ方がマシではないかと過ぎったこともあった。それを分かっていたのだろう、普段俺の口には舌を噛まないための猿轡が噛まされていた。  そんなクソみたいな時間でも、耐えられていたのはあいつがいたからだ。 「……十鳥」  生徒会役員たちが全員帰ったあとの深夜の生徒会室、あいつは俺の分の食事を手にやってきた。  ソファーの上、手足を縛られたまま動けない俺の側にやってきた一番ケ瀬はそっと俺の体を起こす。朦朧とした意識の中、腹の中で震え続ける玩具の感覚に吐きそうになりながらも俺は一番ケ瀬にすがりついた。 「……っ、十鳥……悪い」  俺は一番ケ瀬に恩返しをしたくて、一番ケ瀬を悲しませたくなくて、今までみたいに俺の側にいてもらいたかっただけなのに。  ――何故一番ケ瀬を泣かせてしまってるのだろうか。  抱き締められる体から流れ込んでくる一番ケ瀬の体温に酷く心が落ち着いていき、同時に苦しくなる。縛られたままの体では、一番ケ瀬を抱き締め返すこともできなかった。  それでも、こんな精液と汗で汚れた体でも一番ケ瀬は俺を抱き締めてくれる。その事実だけが辛うじて俺を繋ぎ止めていてくれた。  猿轡を外され、手足の拘束も外される。  一番ケ瀬はいつも汚れた俺の体を風呂で洗ってくれて、それから食事も運んでくれた。 「……っ、一番ケ瀬……」 「……痛むか?」 「す、こし……」  生徒会室側の休憩室、そこにあるシャワールームで毎晩一番ケ瀬は俺の体を綺麗にしてくれた。  こんな体を見せたくないし、拘束さえ外してくれたら一人でも大丈夫だと断ったが、一番ケ瀬は「これくらいさせてくれ」と言って聞かなかった。  優しく、鬱血痕と爪痕が残った体に泡をつけて現れていく。一番ケ瀬の手の感触がこそばゆくて、胸や局部に一番ケ瀬の指が触れるたびに反応してしまう自分自身が酷く惨めで恥ずかしかった。  けれど一番ケ瀬はなにもしてこない。悪かった、とだけ言ってすぐに別の場所を清めてくれるのだ。 「一番ケ瀬……俺のこと、嫌いにならないのか」 「なんでだよ」 「……っ、だって」  何度も一番ケ瀬の目の前で抱かれた。七搦に至ってはわざと一番ケ瀬に見せつけようとしてる節すらもあったが、一番ケ瀬はその挑発に乗ることはなかった。 「なるわけないだろ、寧ろ……お前の方こそ」 「一番ケ瀬……」 『……っ、……お前がいっそのこと、俺のことを見捨ててくれりゃ良かった』  生徒会室で一番ケ瀬の前で他の連中に犯された日の晩、二人きりになった生徒会室の中で一番ケ瀬が口にした言葉を俺は一生忘れることはないだろう。  一番ケ瀬も俺も、お互いに傷つけ合うような真似をしてるという自覚はあった。  俺が抱かれることが一番ケ瀬には苦痛で、けれど一番ケ瀬が俺の意思を無視して逃げだせば俺たち二人とも終わりだってこと。それを分かった上、一番ケ瀬は俺だけが四軍になることを選んだのだ。  俺にとって、一番ケ瀬がその選択をしてくれたことは救いだった。だって、一番ケ瀬のためにこんなクソのような扱いも耐えてるも同然だ。  一番ケ瀬が受け入れてくれなかったらきっと、俺は。 「……十鳥、あと半年だ。……来年の三月、あいつらがこの学園からいなくなったら……」 「ああ、……分かってる」  このまま一番ケ瀬も俺も耐え抜くことができれば、生徒会会長は一番ケ瀬の手に渡り、そして上級生であるやつらが卒業し、この学園の生徒会の実権を一番ケ瀬が握ることができれば――そのときは、全てを覆させる。  そう、一番ケ瀬は言っていた。  抱き締められ、十鳥、と切なげに名前を読んでくる一番ケ瀬の頬に軽くキスをすれば、一番ケ瀬は少しだけ驚いた顔をした。 「ととり……」 「……俺は、お前が無事ならなんでもいい」  生徒会だって、カースト制度だってどうでもいい。いや、どうでもよくはないかもしれないが、それでもだ。一番ケ瀬が俺の側にいてくれることだけが全てだった。  だからもし俺の身に何かあっても、無茶な真似だけはしないでくれ。我慢して、耐えてくれ。  そう一番ケ瀬の胸に体を預ければ、そのまま一番ケ瀬の腕に体を抱き締められた。 「……っ、十鳥」 「っ、一番ケ瀬……」  最初は触れるだけのキスだった。それでも耐えられなくなり、一番ケ瀬は俺の後頭部を掴んだまま深く唇を重ねる。  何度も他の男の痕跡を塗り替えるように執拗に舌を絡め取られる。腰に当たる一番ケ瀬のものに触れようとするが、一番ケ瀬はそれを拒んだ。  けじめ、だという。他の男と同じようになりたくない。だから、俺を抱かないのだと。  俺にはよくわからなかったし、けれどこうしてキスしてくれるってことは嫌われてないってことなのだと思うことで耐えていた。  最近、自分の心身に対して著しい変化を感じていた。同性相手に触れられることへの抵抗感が薄れていってる。それがいいことなのか悪いことなのか最早分からなかった。けれど、それが慣れってものなのだと俺は知っていた。  状況への適応は自己防衛にも繋がる。それと同時に、変わることのない俺と一番ケ瀬の関係に安堵する自分もいたのだ。

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