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05※

 生徒会室で飼い慣らされてどれほど経っただろうか。  ある日、いつものように書類作業中俺の口に性器をねじ込んではフェラさせていた九重は「もうそろそろ良さそうだな」と呟いた。  それがきっかけとなった。  久しぶりに身につけた制服の下。浮き出た乳首と尻の部分に大きな穴の空いた下着を身につけられる。すっかり柔らかくなった肛門にはもう拡張する必要はないと判断されたようだ。今では逆に肛門に何も挿入されていないことの方が違和感が大きかった。 「おい、あれって……」 「うっわ、なにあれ」  暗くなった視界の向こう側、空気がざわつくのを肌で感じた。 「十鳥君、久しぶりの学校はどう?」 「……っ、わ、かりません」 「ふふ、そりゃそうか。目を塞がれてたらなんも見えないもんね」 「けど、その分感じるものもあるんじゃないかな?」そう柔らかな八雲の声が落ちてきたと同時に、ガチャガチャと背後でなにか金属が擦れるような音が響く。そして首に付けられていた首輪がずんと重みを増した。どこかと首輪を繋がれたのだろう。 「今日はここでお披露目だよ、十鳥君。ちゃんと、言われた通り皆を気持ちよくするまでは帰っちゃ駄目だからね」  楽しげな、悪魔のような声が落ちてくる。  生徒会室での行為は全てはこのためだと予め九重から聞かされていたし、承知していた。それでもいざ実践となると、恐怖と緊張――そして感じたことのない高揚感で頭の中がぐちゃぐちゃになるのだ。  床の上に座らせられ、そのまま顎を掴まれる。唇を揉むように口を開かされ、八雲の指が俺の舌を引きずり出すのだ。 「――ほら、十鳥君。なんて言うんだっけ?」  遮られた視界の中。その分聴力が強化されているらしい、一人二人――いやもっとだ。五人以上の声、そして足音が聞こえる。ここは廊下かどこかだろうか、八雲の声が甘く反響して聞こえた。 「……ぉ、……俺の体、……たくさん、使ってください」  口を開き、どこにいるかもわからない相手に媚を売る。ざわつく空気の中、八雲の笑いを殺すような声が俺には聞こえた。  ――全校生徒の捌け口になることがカースト最下位である四軍の本懐でならなければならない。  そう何度も九重に叩き込まれ、犯され、イカされ、本来の俺の常識もなにもかも木っ端微塵に砕かれた。辛うじて残っていた意識だけは壊されてしまわないようにそっと胸の奥に閉じ込め、これ以上狂わされないように壊れたフリをする。  それが楽だから。それが生き残るためには必要だから。だから、俺は誰のかも分からないチンポを咥えた。胸を舐められ、しゃぶられ、揉まれようが抵抗しなかった。いきなり肛門を犯されても受け入れた。  ――それがカースト最下位に落ちた人間の役目だから。  一度目、二度目までは人数を数えていたが、途中からもうワケがわからなくなっていた。  可愛い女子でもあるまいし、そこまで盛るほど魅力的な人間でもない。それでも、捌け口としての価値はあるらしい。  乱暴に、ときに殴られることもあった。それでも八雲は止めることはなく、「一回射精したら他の子に変わってあげようね」などと抜かしていた。 「まだちゃんと稼働して初日だから、一応僕たちでも鍛えてあげたけど彼は体力がないからね。すぐに壊れない程度に男慣れさせたいから」  そんな配慮いらない。  放課後から消灯時間までの間、という話だったが、体感の時間では一晩中犯されているような感覚だった。  そして恐らく最後の一人がいなくなったあと。  何人もの男の精液が腹の中で混ざり合い、膨らみ、吐き気が止まらない俺はその場に嘔吐した。  中出しされた精液が喉から出てくるんじゃないかと思ったがそんなことはなく、酸っぱい胃液だけが飛び出した。  何度も嘔吐いた拍子に目隠しがずれてしまった。ようやく視界に光を取り戻したと同時に、俺は辺りの状況を見て血の気が引いた。  至るところに飛び散る精液。転がった玩具。その後片付けを考えると気が遠くなる。 「よく頑張ったな。……それとも寧ろ楽しかったか?」  八雲は笑いながら俺の首輪を外した。  そして、そのまま汗で貼り付いた俺の前髪をかきあげるのだ。 「……っ、さ、わるな……」 「従順なフリはやめたのか? ……ま、俺はそっちのが興奮するけどな」 「っ、ん……っ」  八雲に腹を押さえつけられた瞬間、ぶぴっと勢いよく精液が吹き出す。恥ずかしい音に顔が熱くなるのも束の間、八雲はそのまま俺の肛門に指をねじ込むのだ。 「汚えな……便器らしくなってきたじゃねえか」 「……っ、や、も、……っ、終わりだって……」 「便器に休みもあるわけねえだろ。……けど、こんな汚い穴に突っ込みたくねえし、まあいいや、風呂行くぞ。ついでに他の奴らの奉仕活動もしとけ」  「……っ、な、……っ、んん!」  八雲に抱き抱えられ、そのまま大浴場へと連れて行かれる。目隠しもない、すれ違う生徒たちの視線が突き刺さる。八雲が一緒だから直接声をかけられることはなかったけど、このあとのことを考えたら気分が落ち込んだ。  ――理性なんて捨てろ。冷静になるな。  繰り返し自分に言い聞かせる。  俺は八雲にしがみつき、そのままやつの胸に顔を埋めた。 「……っ、お風呂、いやだ」 「あ?」 「あ、あんたの……部屋がいい」  自己防衛。自分の身を守るために使えるものは全て使っていけ。  八雲のこめかみがぴくりと反応し、次の瞬間唇を塞がれる。廊下のど真ん中、抱きかかえられたまま深く貪られる舌に脳の奥がぞくぞくと震えた。 「誘い方、まだ下手くそだな。……まあいい、ブスが調子乗ってんのは癪だけど、俺も我慢できねえしな」 「今回はお前の言うこと聞いてやるよ」頑張った褒美にな、と冷ややかに笑う八雲に俺はやっぱりこいつ嫌いだと思った。 「っは、ぁ……っ、小ブス、ちょっとはケツマンの使い方覚えてきたみたいだな……ッ!」 「ふ、ぅ゛……ッ」 「俺と二人のときは前みたいにもっと嫌がれよ、……っそっちのが興奮すっから」 「っ、へ、んたいやろ……ッぉ゛……っ!」  柔らかいベッドの上、八雲に抱かれながら俺は一番ケ瀬のことを考えていた。  未だ俺が生徒会室に帰ってこないから心配してないだろうか、そんなことを。  それでもきっと一番ケ瀬は待っててくれるのだろう、そんな気だけはしていた。  気持ちいい、という感覚すら麻痺していた。  脳が痺れ、なにも考えられなくなる。弛緩した下半身をひたすら穿かれ、形を作り変えられていく。この行為になんの意味があるのか俺にはわからないが、きっとそんな大層なものではないのだと思えばまだ気賀楽だった。  ――四軍として全校生徒の前に出るようになってから、俺の生活はがらりと変わった。  始めの頃は八雲や七搦がいたが、それも慣れてきたのだと判断された頃には一人で首輪に繋がれ放置される。そして時間を見計らってやってきた役員たちに回収されていくのだ。  基本放課後が主に四軍として使われることが多かったが、時間が経つに連れて四軍がどのようなものか理解した生徒たちの行動は以前よりも大胆なものになった。  とはいえど、“こうなる”前からも似たようなことはあった。いきなり抱き締められたり、体を弄られたり、ぶっかけられることも多々ある。  それでも明確に変わったことといえば、俺がそれを拒否することがなくなったことだろう。その結果どうなるのか、考えずとも分かっていた。 「ん゛、う゛……ッ」 「……っ、は、十鳥先輩……」  知らない生徒にいきなり抱き締められたと思えば、そのまま胸を揉まれながらキスをされる。驚いたが、抵抗する気もならなかった。  カリカリと制服の上から浮かび上がった乳首を引っかかれ、揉まれ、扱かれる。  スラックス越しに押し付けられる股間の熱さに、俺はぼんやりと『長丁場になりそうだな』と考えた。  ぢゅる、と舌を吸われ、唾液を飲まされる。なるべく制服を汚されたくなかった俺は、自分からベルトを緩める。  そして穴の空いた下着の奥、尻の谷間をぐに、と広げて柔らかくなった肛門を生徒に向けた。 「……やるなら、さっさと済ませてくれ」 「っ、ふ、ぅ゛……ッ」 「はあ……っ、十鳥先輩……っ気持ちいいです、先輩の中……ッ」 「うる、せえ……っ、いいから、黙って抜け……ッん、ぐ……ッ!」  壁に両手を突き、後輩らしいその男に腰を突き出したままバックで犯される。  この体制だと顔を見ずとも平気なのでまだ堪えられた。それでも時折、目の前の窓ガラスに反射した自分が酷くだらしない顔をしてるのが見えてしまい、さっと視線を外すのだ。  乳首を捏ねられながら中を犯される。以前は受け入れるので精一杯だったものが、慣れとは恐ろしいもので、呼吸の仕方や力の抜き方を覚えるだけで大分余裕が出てきていた。  それと同時に、誰は下手でこいつは上手いだとかそんな余計なことまで考える余裕が出てきたのはあまりよくないかもしれない。  いっそのこと、気絶するほど犯された方がまだ楽だ。ただ受け入れる肉になって退屈な時間を過ごすのも嫌で、暇を潰すために自分の性器に手を伸ばす。  ピストンに合わせて性器を扱き、少しでも気が紛れるようにと遊んでいたときだった。 「っと、十鳥、くん……?」  聞こえてきた声は酷く懐かしい声だった。  視線を向けたその先、ただでさえ日に焼けていない生白い顔を更に青くした二通がそこには立っていた。  それと同時に俺は、いつの日か気絶するまでこいつにめちゃくちゃに犯された日のことを思い出した。  ――こいつなら、きっと。 「……っ、よお、二通……お前も抜きに来たのか?」 「と、十鳥君……君は……っ」 「お前なら、大歓迎。……前に、助けてもらったしな」  お前も混ざれよ、と俺は二通を手招いた。  ごくりとその喉仏が上下する。そしてすぐ、その目の色が変わるのを見てぞくりと背筋が震えた。  普段の気弱そうなこいつとは違う、加虐的なあの色だ。――以前は恐ろしかったその目が、今はただ余計俺の興奮を煽るのだった。  二通とのセックスは暴力に近い。  性欲、怒り、悲しみ、色んなものをぶちまけるように乱暴に犯され、それでも苦痛以上の凶暴な快感は今の俺の心を塗り潰すには丁度良かった。  何度も中に出され、休憩させてくれと言っても二通はやめなかった。途中から二通に倉庫に連れ込まれ、結局終わった頃には放課後だ。  俺は久しぶりにすっきりとした気持ちになっていた。おかしなものだ、あんなに嫌だったのに、今では爽快感すら覚えるほどなのだから。  だというのに、俺を散々抱いた二通は全くスッキリした顔をしていない。それどころか苦しそうな顔をしていたのだ。  俺はそんなやつの背中に声をかける。「どうした、二通」とすると、暗い顔をした二通はこちらを振り返った。 「……ごめん、十鳥君」 「は? ……なんでお前が今更謝るんだよ。ってか、誘ったの俺だし」 「……っ、ごめん」  なんなのだ、こいつは。  情緒が安定していないやつだとは分かっていたが、そこまで凹まれるとこちらとしても調子が狂う。  二通、とそっと怠い体を引き摺って近付けば、二通に抱き締められた。 「……っ、う、お……なんだ? またしたくなったのか?」 「君は、そんな人じゃなかった」 「……変わったね、十鳥君」前髪の下、二通の目に見つめられた瞬間、焼けるように顔が熱くなった。  まるで自分を否定されたような、いや実際否定されたのだ。俺は。なにも知らないこいつに、否定された。それがムカついて、俺は二通にキスをした。 「っ、む、……っ、ぅ……ッ」 「だ、まれよ……っ」 「待って、十鳥く……ッ」 「お前に、俺のなにが分かるんだよ……っ、お前だって、他の奴らと同じじゃねえか……ッ!」  沸々と腹の奥に溜まっていたものが、無理矢理塞いで見てみぬふりをしていた感情が膨れ上がる。俺は二通を押し倒し、再びやつの下半身を弄った。疲れたし、これ以上は明日にも響くとわかっていたが耐えられなかった。  ――まだ、怒りというものを覚えている自分自身に。 「十鳥君……っ、ん、う……ッ!」 「は、お、俺だって……すきで、こんな、の……」  駄目だ、言うな。溢れ出しそうになる感情を必死に堰き止め、俺はそのまま二通の性器の上に跨がる。単純なもので、既に固くなっていたそれは簡単に奥に入っていくのだ。ず、と粘膜を摩擦し、埋め込まれていく性器に脳が痺れる。 「っ、と、十鳥君……ごめんね、……っ」 「は、ぉ、俺は……っ、ん、む……ッ」 「十鳥君……っ、君は、……ッ」  二通に抱き締められたまま、更に深く犯される。同情するようなキスも視線も嫌だった。滲む涙を舐め取り、二通はそのまま俺を押し倒した。 「……っ、憎いよ、僕は……っ、あの男のせいで、 あいつのせいで君は……っ、」 「ぁ、ん、……っ、く、や、めろ、あいつは、関係な……ッ、ぁ゛……ッ!」 「十鳥君……っ、あんなやつ早く捨てて、お願いだから……っ、もっと自分を大切にして……」  それ、お前がいうのか。  なんて笑うことすらできなかった。  次第に腹の中でバキバキに固くなっていく性器にぷっくりと腫れた前立腺を擦りあげられ、大きく仰け反る。ぶつけられる、二通の感情を全て。  そんなこと今更言われたって、もうとっくに手遅れだってのに。  自嘲的な笑いが自然と口元に浮かんでいた。俺を犯している間二通はずっと悲しそうな顔をしていたのが網膜に焼き付いていた。

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