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06※

 ◆ ◆ ◆  ――あれからどれほどの時間が経っただろうか。  四軍として犯され続ける日々も直近は惰性的なものになっていた。そして、そんな日々にも終わりが告げられる。  冬を越え、暖かくなって来た頃。  一番ケ瀬は宣言通り生徒会長になり、そして生徒会のやつらは全員この学園からいなくなった。  とはいえ、二月にはもう学園に残っていたのは九重だけだったのだが、あの男だけは真っ当に卒業していたのだ。  噂によると七搦は女に刺されて入院し、そのまま消えて、八雲についてはこいつもなんか襲われたらしい。詳しくは聞いていないが、一度顔を出した八雲に会ったところ「面倒臭い男に付き合いたくないからね。君も男の趣味には気を付けたほうがいい」と言ってそのまま転校した。  そしていつの日かの宣言通り、生徒会の実権は一番ケ瀬に託された。九重もいなくなった今、もう一番ケ瀬に口出しする連中はいない。  ――現れない、と言った方が適切なのかもしれない。 「各クラス一名ずつ割出せ。選出は成績と普段の素行、ポイントが低いものを総合して選べ。……ん、ああこいつは七搦の弟か? じゃあこいつも四軍に落とせ」  生徒会室の会長机に腰を掛けたまま、一番ケ瀬は新しく入った副会長に支持出しをしていた。  そんな背中を眺めていた俺は、ちょいちょいと一番ケ瀬の腕を掴む。 「一番ケ瀬、そろそろ休憩したらどうだ?」 「ん、ああ。そうだな……もうこんな時間か」  壁にかかった時計を一瞥し、一番ケ瀬はそのまま俺の腰に触れる。俺はそっとその手を外し、「それじゃあ、後は任せた」と副会長に声をかける。副会長はぺこりと頭を下げ、そのまま生徒会室をあとにした。  生徒会室に残ってるのは俺と一番ケ瀬だけ。つまり、二人きりだ。 「おい、一番ケ瀬」 「ん? なんだ?」 「……公私混同はするなってあれほど言ってるだろ」 「分かってるよ。別に公私混同はしてない。……ただ、頑張ってる会長補佐を労ろうとしただけだ」 「な」と悪びれなく笑いながら抱き締めてくる一番ケ瀬に俺はなにも言えなかった。  今年度から正式に新しく四軍が設立されることになった。  ただし全校生徒の内の一人、となるとあまりにも負担がデカすぎるために各クラスから1名ずつ、現三軍の中から最も成績が悪い人間が選び出される。  見せしめ、というわけではない。更に下位ランクを作ることで、現在三軍の生徒たちの間でもワースト一位にならないようにと切磋琢磨させることが目的だとは一番ケ瀬は言っていた。 「……っ、一番ケ瀬」 「ずっと、この日を待ってた」 「……ああ、俺もだよ」  ずっとずっと、一番ケ瀬の言葉を信じてここまできた。何度心砕かれそうになっても一欠片だけでも自我を持っていられたのは、一番ケ瀬が側で同じように耐えていてくれていたからだ。  人のいなくなった生徒会室の中、額が触れるほど見つめ合う。あれほど一番ケ瀬と向かい合うことが怖かったのに、今はただこうして堂々と二人でいれることが嬉しくて仕方なかった。 「けど、本当によかったのか?」 「なにが?」 「……その、俺で、だ」 「あのな、……お前、また俺を怒らせる気か?」 「分かってる、分かってるけど……不安になるんだ。お前がどうして、ここまで俺のことを信じてくれてるのか、とか」  結局、あのときも一番ケ瀬に肝心の俺のことが好きだという理由を聞かされていない。  そうじっと一番ケ瀬を覗き込めば、誤魔化すように一番ケ瀬は軽く唇を重ねてくるのだ。 「ん、ちょ……おい」 「……それはお互い様だろ。お前だって、ここまで俺のために身を切ってくれたんだ。……こんな俺のために」 「それは、お前だから……」 「じゃあ俺も、十鳥だから」 「……なんだよそれ」  なんだか上手くはぐらかされたようだ。じとりと一番ケ瀬を睨めば、やつは楽しげに笑った。そして、俺を抱き締めるのだ。 「なあ、十鳥……」 「いちいち聞くなよ」 「ま、まだ何も言ってないだろ……」  言わずとも、お互い考えていることは同じなのだ。  ずっと、俺たちはこの日のために生きていた。大袈裟かもしれない。けど、実際にそうなのだから仕方ない。  俺は一番ケ瀬の下半身に手を伸ばす。既に大きくテント張っていたそこを撫でれば、「十鳥」と一番ケ瀬は息を漏らした。 「……興奮しすぎだろ」 「笑うなよ、当たり前だ。ずっと、夢に見ていた」 「夢にって、言い過ぎじゃ……」 「言い過ぎじゃねえよ。……あいつらに抱かれてるお前が何度も何度も夢に出てきて、その度に頭がどうにかなりそうだった」 「……っ、一番ケ瀬……っ、ん」  キスをされ、そのまま太ももを撫でられる。下半身同士を擦り合わせるように腰を押し付けられ、呼吸が自然と上がった。まだなにもしていないのに、まるで初めてセックスするときみたいに緊張した。  一番ケ瀬に失望されないか、形の変わった俺の体に嫌気がさされないか。怖くないわけではない。それでも一番ケ瀬は俺の緊張も恐怖も全部受け止めてくれると分かっていたから、俺は自分から脱ぐことが出来た。 「……っ、い、ちばんがせ……っはやく……」 「は、十鳥……ッ」  キスをし、舌を絡め合う。粘膜同士が溶け合い、あまりの心地よさにキスだけでイキそうになるのだ。快感と言うよりもこれは、多幸感に近いだろう。一番ケ瀬に抱き締められてる事実に満たされていく。涙が自然と滲み、一番ケ瀬は俺を強く抱きしめた。 「なあ、俺……っ、変じゃないか」 「変じゃないよ」 「か、変わって……」 「変わってない。……お前はお前だ、俺の親友で、大好きな十鳥のままだ」 「っ、一番ケ瀬……ッ」  柔らかくなった肛門に押し当てられる一番ケ瀬の性器。そこから伝わってくる熱と一番ケ瀬の鼓動に全身が熱くなる。  ようやく、俺は一番ケ瀬と繋がれるのだ。  指を絡め、俺は一番ケ瀬の背中に足を回した。ゆっくりと埋め込まれる性器に、俺は呼吸を繰り返す。熱い、熱くて、粘膜が内側から焼かれていくようだった。 「っ、ぁ、……ッ、ふ、ぅ……ッ」 「十鳥……っ、苦しくないか?」 「あ、ああ……大丈夫だ」  そうか、と一番ケ瀬は小さくつぶやき、そして再び腰を押し進めた。 「っ、ひ、ぐ……ッ」 「十鳥……っ、」 「だ、いじょ……ぶ、だから……もっと、してくれ……ッ!」 「ぁ、ああ……」  もっと、乱暴に。もっと、めちゃくちゃに。  ああ、一番ケ瀬。一番ケ瀬が俺の中に――あれ。 「……十鳥?」 「……っ、ぁ、え」 「どうした?」  二つの目がこちらを向く。俺は滲む冷や汗を拭い、そして視線を逸した。 「い、や……なんでも、ない」  ――物足りない、なんて。  ほんの一瞬でもそんなことを考えてしまった自分にただ俺は目の前が真っ暗になっていった。

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