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第7話
ふわふわと柔らかそうなハニーベージュの髪が印象的で、見かければつい目が行く位、以前から気になっていた奴だった。何度か一緒になった事があるが何時も他の常連客と盛り上がっていたので………と言っても、彼はいつも聞き役でニコニコしているだけだが………話をしたことはなかった。
人懐っこい性格で年上に可愛がられる質らしい。いつも親世代と言えるくらいのおじさん達と連んでいた。いつ見ても笑顔で、細い目を更に細くしてニコニコ笑う顔が、品の良い狐の様で、可愛いなと思っていた。
しかし、その日は親しい客もいなかった所為か、彼はまっすぐこちらに来た。そして、隣に座っていい?と私に聞きながら、その返事も待たずにさっさと座っている。遠慮も躊躇も感じられない図々しさに思わず笑ってしまって、断る気にもなれず一緒に飲み始めたのだった。そう言えば、マスターや常連客からワタルチャンと呼ばれていていたっけ、と思い出す。
「今まで、話したことないよね?俺、佐々木渉ぅ。よろしくね~」
なんとも軽い感じの自己紹介をする渉に、私も自己紹介をして応えた。
「ワタルチャン……だよね。橋本浩介です。……よろしく……」
人見知りの為、どうも硬くなってしまう。一方、渉は終始テンションが高い。
「俺のこと知ってたの?そうそう、おじさん達は皆ワタルチャンって呼ぶんだよ。どう呼んでくれても良いよ。コウスケっていうんだね。名前、知れて嬉しい。コウスケクンって呼んでもいい?」
名前を知れて嬉しいなんて、恥ずかしい事を平気で言うな、とこちらが照れてしまう。でもそんな言葉に、私も話ができて嬉しいよ、と素直に言ってしまった。
話してみると前に見かけた時より、若い印象だ。年上だと思っていたが、同世代か、もしかしたら年下かも知れない。そんな事を考えながら暫く世間話をしていたら、唐突に渉が、芝居がかった口調で悲壮感を漂わせ話し始めた。
「そう言えば!!マスター、聞いてよ!今日、ここに来る前に振られちゃったんだよ!」
「この前言ってた彼?」
「そうそう。ここにも連れてくるつもりだったのに!その前に振られたの!!」
少々興奮気味に涙声で訴える。それからその彼が如何に格好良くてイイ男かを、未練たっぷりに語り始めた。ひとしきり話すと満足したらしい。
「ま、アイツから振ったんだから、二度と口なんて聞いてやらないけどさ」
と負け惜しみを言いながら、不意に私に話題を振る。
「コウスケクンは?彼氏は?前に一緒に来てたでしょ??」
そう言えば、渉を初めて見かけた日、彼氏だったかセフレだったか……と一緒にいたのだ。その時、渉があんまりジロジロと見てくるから、ゲイが嫌いなのかと思っていた。が、渉もそうらしいと知って、少しほっとした。こうして友達になったのに、自分の性癖嫌われているなら少し気まずいと思ったのだ。
「そんなの、とっくに別れてる。誰だったか顔も思い出せないよ。」と笑うと、渉は少し哀れむ様な顔をした。が、すぐに笑って、まぁそんなものだよね、と言った。
その後マスターを交えて飲みながら、振り出しに戻って、渉の失恋話に耳を傾ける。最終的に渉が「新しい恋をするぞ」と宣言する頃には、私も渉もかなり酔っていた様に思う。
マスターにそろそろ閉店だと言われて時計を見ると、そろそろ終電の時間が迫っていた。会計をしていると、渉が外で飲み直さないかと誘ってきた。ほぼ初対面だったのに、そう感じさせない渉の人懐っこさと、マスターも加わって話していた安心感から、自然と打ち解けてかなり気分が良かった。だから、その誘いも端から断る理由もなくて、ふたつ返事でオーケーしたのだった。
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