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第11話

「川島は、最寄りはどこ?」 「3つ先です。その質問、何回目ですか??」 と問われて、最寄り駅の話なんてしたかなと首を傾げる。が直ぐに、 「飲みに行くなら、橋本さんの家の近くまで付き合いますよ。橋本さん、武蔵上溝駅でしたよね?そこまで行けば誰もいないんじゃないですか?」 と川島が言った。最寄り駅の話は……したらしい。  急行電車で20分程度のところだから、見知った顔がいないわけでは無いが、気晴らししたい気持ちが勝って、それもそうだと了承する。急ぐでもなくホームに降り立つと、丁度、急行電車が入ってきた。一番近い列の後に並ぶと、ぞろぞろ車両に吸い込まれていく乗車客に続いて私達も乗り込で、並んで吊り革に掴まった。  電車の込具合はいつもと大して変わらないが、時間が早い所為か学生が多い様だ。電車の揺れに合わせて他人の体重が背中や側面から伸し掛かって、つり革を握る手も痺れてくる。隣りにいる川島も無表情に耐えている様だ。毎日の事なのに、満員電車で揉みくちゃにされていると、なんだか疲れて家に帰りたくなる。 「やっぱり、今日は帰ろうか?」 気まぐれな私に、川島が非難の声を上げた。 「え、何でですか?良いじゃないですか。飲みに行きましょう。帰っても一人じゃつまらないでしょう。それに、もう、橋本さんの駅なのに!私、そのままUターンなんて嫌ですよ。」 まぁ確かに……その通りだよ川島……そんな顔で頷くと、川島がニヤリとしてまた窓の方を向いた。 やっとの事で最寄り駅に着くと、川島が喜々とした表情で、ここが橋本さんの住んでる街なんですねと言う。それから商店街に出るまでの短い時間に、いつから住んでいるのかから始まって、家賃はどれくらいか、買い物の便は良いのか等、次々に質問されて、面食らった。大して面白い話とは思えないし、興味があるとも思えないのに。 「おすすめのお店、ありますか?」 商店街迄来ると川島が聞いた。数件思い浮かべてみたが、良いなと思うのはいつも渉と行く店ばかりで、川島と行く気にはなれなかった。顔見知りの店員に何か聞かれるのも煩わしいし、川島と二人で行ったことが間接的に渉の耳に入るのも嫌だった。何より『二人の場所』に他人を連れて行きたくなかったのだ。  ふと最近新しく出来た居酒屋があることを思い出して、そこにしようかと思ったが、駅前でチラシを貰ったよ、と渉が嬉しそうにしていたのを思い出す。その時、渉と約束をしたのだ。二人で一緒に行こうね、と。ほんの一週間前の出来事なのに、その約束は果たせるのだろうか。理由も行き先も分からないまま、いつ迄待つのだろう。すぐ帰って来るとも思えないが、永遠に帰って来ないとは思いたくない。そんな不安に襲われる。しかし、いつかきっと帰ってくるさ、と自分に言い聞かせて、その時の為に、其処には行かないでおこうと思ったのだった。

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