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第13話
「仕事ばっかりして、彼女さんの事、放ったらかしだったんじゃないですか?」
「か、彼女?」
首を傾げる私に、川島は気付いていないが、昔川島と出会った頃に、初恋の彼の事が話題に上った時………川島は、その彼の部活の後輩だった………私がゲイだと話した気がするのだが、忘れたのだろうか。でも忘れたのならそれで構わない、と思い直して話を合わせてみる事にした。
「仕事と私とどっちが大事なの?的な感じですか?彼女さんって、独占欲が強いんですね。」
そういう見方もあるのかと感心しつつ、そんな事は無いよと慌てて否定したが、私の恋人は川島の中では我儘で独占欲の強い女 だとインプットされたようだった。
「付き合って何年くらいなんですか?」
「17、8年てところ、かな…知り合ってからだと20年の付き合いなんだ。」
と答えると、えっそんなに!と大げさに驚いている。
「そんなに一緒にいたら、もう夫婦みたいなものじゃないですか。そこまで来たら何でも許せそうだけどな。」
「そうなんだよね。何でも分かってるし、何でも許せると思ってた。あまり喋るヤツじゃないから、色々溜まってたのかなと思うと、ちょっと怖いよ。」
少し冗談めかして言うと、川島は納得行かない表情で何か考えるように明後日の方を向いていたが、急に手を上げて店員を呼んだ。
「生中一つ!橋本さんは?」
と問われて、ウーロン茶をと言うと、
「ウーロンハイじゃなくて?」
と、また大げさに驚く。
「でもいますよね、仕事と自分を天秤にかけたがる人。私の彼もそうなんです。年度末にひと月休みなしだった時、どっちが大切なんだ?って。だから言いましたよ。どっちも大切だけど、今は仕事が終わらないんだよって。」
酔って舌足らずに喋り続ける。
「まあ、女からしたら20年近く一緒にいて結婚してないって、なんか、あれですよね……それにお子さんもいないわけだし。どうなんですか、その辺は?」
結婚かぁ、と、もう最近は親にも触れられなくなった話題に妙な懐かしさを感じた。同性婚の制度があれば間違いなく結婚していただろう。子供だって、お互いにそういう機能が備わってないだけで、渉と自分の子供だったら欲しかったと思う。でも、戸籍を一つにする事もしなかったし、子供を養子に貰わなかった。心が繋がっている、それだけで良いと思っていたのだ。
「考えなくはなかったけどね。」
と言うと、川島は、
「すみません、我が家の問題でもあるんですよね。」
と、少し斜め下に視線を落とし、つまらなそう呟いた。
しかし直ぐに、それを振り切るように、
「橋本さんって、勝手なイメージですけど、ちっちゃくて可愛くてお人形さんみたいな人と付き合ってるのかなって思ってたんですけど。我儘なお姫様って感じですかね?」
そんな事を聞かれて思わず吹き出した。渉の姿を思い浮かべると、とてもじゃないがお姫様なんて柄ではない。勿論お人形でもない。
「真逆じゃないかな。我儘って言うよりは、周りに気を遣い過ぎて疲れてるし、背は俺よりちょっとだけどデカいしね。」
「えぇ、橋本さんより大きいんですか?」
「確か182って言ってたかな。でも笑うと狐みたいでさ、憎めない感じで。」
そう言うと、そんなに背が高いんですか?と、また大げさに驚ろかれて、彼女設定だったと思い出す。女性でその身長はあまり多くはないだろうから驚くのも仕方ない。川島が昔の話を思い出せばそれでも良いし、180cm超の彼女と付き合ってると思われても、面白いじゃないか。
「ヤダなあ、惚気けてますね~彼女さん、幸せですね。」
「惚気けるなんてそんな!それに、幸せだったら出て行かないだろ?」
それを聞いて川島は、あははと笑って、それもそうですねと言った。
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